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上下斜視と斜頸

斜視と斜頸

両目の位置関係が異常の斜視strabismusだと思って眼科を受診すると、斜視だけでなく顔の左右への傾き、すなわち斜頸torticollisを指摘されることがあります。
しかもその斜頸は斜視が原因だと説明されることがあります。

斜頸の原因と眼性斜頸

顔が左右どちらかに常に傾いている斜頸は、主には首の筋肉(胸鎖乳突筋)や首の骨(頸椎)など整形外科領域の病気で起こります。https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/torticollis.html
しかし整形外科でみてもらっても異常がなければ、目の異常からくる斜頸、すなわち眼性斜頸ocular torticollisの可能性があります。

3種類の頭位異常

実は眼性斜頸は一部の斜視患者さんにみられる頭位異常のひとつです。
ところで3次元空間内の運動である眼球運動は、直交する垂直、水平、前後の3軸周囲の回転運動である内外転、上下転、内方外方回旋に分解されます。https://meisha.info/archives/2115
同様に頭位異常も前後、水平、垂直の3つの軸の周りの回転によって、頭部傾斜head tilt、顎上げ/顎引きchin up/down、顔回しface turnに分類されます。

顎上げはV型外斜視、顔回しはデユアン症候群などでみられます。
先天上斜筋麻痺では顎引きと健側への顔回しも伴う頭位異常を示しますが、健側への頭部傾斜という斜頸が最も目立ちます。https://meisha.info/archives/2121

先天上斜筋麻痺の斜頚

上斜筋の麻痺によって斜頸を生じる理由は何でしょうか?
右目の先天上斜筋麻痺患者では図左のように左への頭部傾斜の頭位をとります。
実は顔が傾斜すると両眼球を水平位置に保とうとする回旋眼球運動が反射的に起こります。https://meisha.info/archives/2721
左へ頭部を傾斜すると、右目は下斜筋が働いて外方回旋しますが、内方回旋作用のある上斜筋は働く必要がありません。

Bielschowsky 頭部傾斜試験 BHTT

一方、強制的に顔を右に傾けると右目は内方回旋する必要があります。
右の先天上斜筋麻痺で上の図右のように患眼の右目が上転するのは麻痺している上斜筋の代わりに、内方回旋作用のある上直筋が過剰に働くためです。
上斜筋麻痺を診断するBielschowsky 頭部傾斜試験 BHTT: Bielschowsky head tilt testはこの現象を利用しています。

斜頸の原因

右の先天上斜筋麻痺では顔を傾けない真っすぐの頭位でも、右目の下斜筋の外方回旋作用に釣り合わせるために、麻痺している右上斜筋に代わって右の上直筋が過剰に働き、右上斜視の状態になります。
その結果右目が上転しますがその上下ズレを嫌って、幼小児期からの学習によって患児は顔を左に傾ける斜頸の頭位を無意識にとっているのです。
なお顎引きと健側(左)への顔回しは、患側の右眼が外転して上転する頭位です。
上斜筋の内方回旋に次ぐ2番目の作用である内転時の下転を回避するための頭位です。