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春季カタル(VKC)と免疫抑制点眼薬

アレルギー性結膜疾患(ACD: allergic conjunctival disease)は[Ⅰ型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で,何らかの自他覚症状を伴うもの]と定義されています。
ACDにはアレルギー性結膜炎(AC: allergic conjunctivitis)、春季カタル(VKC: vernal keratoconjunctivitis)、アトピー性角結膜炎(AKC: atopic keratoconjunctivitis)、巨大乳頭性結膜炎(GPC: giant papillary conjunctivitis)の4つの病型が含まれ、このうち春季カタル(VKC)は結膜に増殖性変化がみられるACDです。
結膜の増殖性変化とは[眼瞼結膜の乳頭増殖,増大あるいは輪部結膜の腫脹や堤防状隆起]を指します。
VKCの治療について[抗アレルギー点眼薬だけで効果不十分な中等症以上の症例に対しては,免疫抑制点眼薬を追加投与]します。
アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会: アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン. 日眼会誌 114: 831-870, 2010.

症例:Nちゃん7歳女児

両目の痒みに対して、近医で3歳のときから抗アレルギー点眼薬であるアレジオンとステロイド点眼薬であるフルメトロンを処方されていました。
しかし症状が一向によくならないとして受診しました。
喘息はなく皮膚はかさかさしている程度です。鼻炎で耳鼻科からクラリチンが処方されています。
両目とも眼球結膜は充血浮腫がみられ、上の眼瞼結膜は厚ぼったく肥厚し小型の乳頭増殖がみられたのでVKCと診断しました。(図左

タリムス

これまでの点眼薬は効果がなかったので中止して、免疫抑制点眼薬のタリムスのみ1日2回両目に点眼するよう指示しました。
1週間後の再診時に[点眼開始3日目から痒みは全くなくなった]と、母親は驚きと喜びの報告をしてくれました。
肥厚していた上まぶたの眼瞼結膜も正常の外観になっていました(上図右)。
今後はVKCに対する免疫抑制点眼薬の使用指針に則って抗アレルギー点眼薬との併用で漸減していく方針です。
大橋裕一 他: 免疫抑制点眼薬の使用指針. あたらしい眼科 30: 487-498, 2013.

免疫抑制点眼薬

現在、VKCに使用できる免疫抑制点眼薬にはタクロリムスのタリムスシクロスポリンのパピロックミニがあります。
いずれもACDの重症化(結膜の増殖性変化)で中心的な役割を担うT細胞機能を抑制します。
福島敦樹: 増殖性(重症)アレルギー性結膜疾患に対する免疫抑制点眼薬治療 適応基準、有効性、長期的効果、副作用、使用上の問題点. 日本の眼科 92: 278-281, 2021.
ただし薬剤費は高額で1日2回点眼のタリムス5mlの薬価は約9,700円です。
1回使い切りタイプでユニットドーズ製剤のパピロックミニは212円ですが、1日3回点眼で1カ月だと90本で18,000円程度になります。

子どもの医療費

免疫抑制点眼薬は高額ですが、子どもの医療費に対して、すべての都道府県・市区町村で独自の助成が行われていて、Nちゃんの場合も薬剤も含めた医療費の窓口負担はゼロでした。