• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

ハッチンソン徴候

帯状疱疹は帯状に生じる有痛性の皮疹で、免疫機能の低下などで再活性化した水痘帯状疱疹ウィルス(VZV)の回帰感染が原因です。
このうち三叉神経節に潜伏感染したVZVが三叉神経第1枝(Ⅴ1)である眼神経を経由して拡がると、その知覚分布域である図の鼻、眼瞼、前額部皮膚の半側に帯状疱疹を生じます。
千葉雅俊, 高橋哲: 三叉神経障害を生じる病態の鑑別診断について. 日本口腔外科学会雑誌 66:540-52.2020

その際、鼻背から鼻尖部にみられる皮疹はハッチンソン徴候 Hutchinson’s signと呼ばれ、角膜炎や虹彩毛様体炎(前部ぶどう膜炎)など眼合併症のリスクが高いことで有名です。
真下永: ヘルペス性前部ぶどう膜炎. 眼科 65:427-34.2023

症例:35歳男性

5日前からあった右眼の奥の痛みに加えて、3日前からTさんは右顔面上部の発疹と右眼のぼやけを自覚していました。
2日前に皮膚科で帯状疱疹と診断され、アメナリーフ内服を処方され、眼部病変のチェックを目的に眼科を紹介されました。

皮疹はHutchinson徴候に該当する鼻尖部と右側鼻根部を含んでいました。
左眼は問題ありませんが、右眼に充血と前房内炎症角膜浮腫がみられました。

右眼矯正視力は0.9でしたが、眼圧は46mmHgに上昇していました。
VZVによる虹彩毛様体炎、及び続発緑内障と診断して、グリセオール点滴にて20台まで眼圧を下降させ、ダイアモックス内服、リンデロン点眼、アゾルガ点眼を指示しました。

眼神経の枝:鼻毛様体神経

三叉神経の第1枝である眼神経は上眼窩裂を通って眼窩内に入った後、まぶたと額の皮膚に分布する前頭神経、涙腺神経、鼻毛様体神経に分岐します。
虹彩毛様体に分布する長毛様体神経と鼻尖~鼻根部皮膚に分布する前篩骨神経は、ともに鼻毛様体神経の枝にあたり、VZV虹彩毛様体炎とHutchinson徴候が同時にみられやすいことが説明できます。