急性緑内障発作は急性原発閉塞隅角症APACと呼ばれ、原発閉塞隅角病PACD: primary angle closure diseaseとしてまとめられるPACS、PAC、PACGのいずれの病期からも発症します。(緑内障ガイドライン第5版)
レーザー虹彩切開術、水晶体再建術(PEA/IOL)、縮瞳薬、レーザー隅角形成術などの治療(緑内障ガイドライン第5版 p94)のうち、クリニカルクエスチョンCQ8 (同p160)では[PACGとPACに対する第一選択治療として水晶体再建術を強く推奨する.]とされています。
一方、機能的隅角閉塞はあってもPASや眼圧上昇のないPACSに対しては、CQ9 (p163)で[PACSに対する治療介入にあたっては個々の症例によるリスク評価が必要であり,すべて一律には治療介入を行わないことを推奨する.]とされています。
そのため浅前房または狭隅角のPACS眼を診察した場合の実臨床での対応に悩まれる眼科医は少なくないと思われます。
吉水聡: 急性原発閉塞隅角症のリスク評価、あたらしい眼科 37:59-60.2020
右眼の飛蚊症でA病院眼科を受診したNさんは狭隅角だったためAPACのリスクについて説明を受け、予防治療としての水晶体再建術PEA/IOLの手術目的で大学病院眼科を紹介されました。
屈折は両眼ともほぼ正視で視力は1.0 (1.2)/0.8 (1.2)、近用メガネなしで読書できていて、虹視症の自覚はありません。
眼圧は15/13mmHgで、細隙灯顕微鏡検査、前眼部OCTは図のごとくでした。
隅角検査を行うと眼球運動によって両眼とも毛様体まで観察可能で、PASは確認できずPACSと診断されました。
そこで以下のように説明しました。
Nさんの目は将来急性緑内障発作をおこすリスクのある目で、その予防にPEA/IOL手術が最も効果的であることは間違いありません。
しかし現在白内障はほとんどなく、手術を受けると老視症状が出現して、近くを見る際に老眼鏡が必要になります。
老視の不便さよりも急性緑内障発作の不安が勝るということであればただちに手術を受けてもよいですが、しばらく経過をみて虹視症などを自覚するようになった時点で改めて決断する選択肢もあります。
以上の説明を聞いて、Nさんは手術は受けずに経過観察を選択されました。
しかし、経過観察中にAPACを発症するリスクはゼロではなく、その際に適切に行動していただくために、以下の内容を説明するとともにそのプリントアウトを手渡しました。