MBSOP: Masked bilateral superior oblique palsyは日本語に訳すと不顕性両眼性上斜筋麻痺となりますが、普及していないので、カタカネで[マスクトバイラテラル]と呼ばれることも多いです。
片眼性の上斜筋麻痺https://meisha.info/archives/2121だと診断して手術した後に、隠れていた他眼の麻痺が顕性化して、はじめて両眼性の上斜筋麻痺だったことがわかる臨床例を指します。
Erkan Turan K et al: Are we overlooking masked bilateral congenital superior oblique palsy in children: is it possible to diagnose before surgery? Int Ophthalmol 38: 1653-1657, 2018.
MBSOPだとわかってから、2度目の手術が必要になることが問題です。
初診時にMBSOPと診断できて手術が1回で済んだ報告は、MBSOPの診断の困難さを示すものです。
太根ゆさ 他: 一度の手術で水平・上下・回旋偏位の矯正が可能であった両眼上斜筋麻痺の一例. 眼科臨床紀要 14: 88-93, 2021.
3歳児検診で視力屈折異常を指摘され、近医眼科を受診、軽度の不同視(矯正視力:1.0/1.0、屈折:+1.5D/0D)と診断されました。
その際に左上斜視と右への斜頸を指摘され、頭部傾斜試験(BHTT)は左で陽性で、左の先天上斜筋麻痺疑いとして大学病院に紹介されました。
過去の写真では2歳くらいから斜頸がみられています。
右への頭部傾斜 head tilt 以外に、顎をひくchin down、右への顔回しface turnの頭位異常が確認できました。
この頭位により左目は外方回旋して、上斜筋の作用の内下転とは逆の外上転位をとり、左の上斜筋麻痺の影響を最小限にしていると考えられました。https://meisha.info/archives/2121
ただし眼底写真での外方回旋ははっきりしませんでした。
MRI検査でも左の上斜筋断面が右に比べて小さく委縮していたので、左の先天性上斜筋麻痺と診断しました。
25△(プリズムジオプター)の左上斜視も確認されたので、左目の下斜筋後転+上直筋後転4mmを行いました。
手術後、軽度の右上斜視と術前とは逆の左への頭部傾斜が目立つようになりました。
術前は目立たなかった右眼の下斜筋過動IOOAも見られるようになり、母親も左斜頸と左目の上転が気になると言います。
頭部傾斜試験BHTTでは右傾斜で陽性となりました。
MBSOPと診断して2回目の手術を行いました。
右上斜視はシノプト9方向眼位の正面視では3度程度だったので、右眼の下斜筋後転のみ行いました。
2回目の手術の1年後には眼位、頭位ともに正常になりました。
両目の先天上斜筋麻痺が左右同程度であれば左右が釣り合って眼位の上下ズレは生じません。
また左右どちらに斜頸しても効果は同じなので斜頸は目立ちません。
しかし上斜筋麻痺の程度に左右差があると、当初は重い方の側の上斜筋麻痺症状が前面に出ます。
手術でそれを解消すると、隠れていた軽度の麻痺側の目の症状が顕性化してMBSOPだったとわかることになります。