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甲状腺眼症で見られる上まぶたの異常

甲状腺眼症でみられる特徴的なまぶたの異常として、眼瞼後退lid retractionとlid lag(上眼瞼おくれ)があります。

上眼瞼後退

眼瞼後退は上下のまぶたが後方に牽引される状態で、その結果、黒目の上下に白目が見えます。
正常でも角膜下方に白目が露出することはありますが、上方は上まぶたがかぶさるので、上方に白目が見える上眼瞼後退は甲状腺眼症に特徴的です。

Lid lag

視線を正面から下方に転じる際、下転する眼球の動きに合わせて、正常では上まぶたが下がるので角膜上方に白目が見えることはありません。
しかし甲状腺眼症では上まぶたの下降が遅れて角膜上方のより広い範囲の白目が見えるlid lag(上眼瞼おくれ)を生じます。
この所見はvon Graefe徴候とも呼ばれます。

病態

甲状腺眼症にみられる上眼瞼後退とLid lagは、ミュラー筋(Müller筋、瞼板筋)の緊張による場合https://meisha.info/archives/408と、炎症による眼瞼挙筋の肥大/拘縮が原因の場合があります。
角谷聡, 柿崎裕彦: 眼瞼・結膜セミナー 甲状腺眼症における上眼瞼異常(lid retraction、lid lag)の病態. あたらしい眼科 36: 241-242, 2019.

前者は過剰な甲状腺ホルモンカテコラミン様作用による刺激で、交感神経支配のミュラー筋が収縮することが原因です。
抗甲状腺薬などの内科治療で甲状腺ホルモン濃度が正常化すれば改善します。
後者は甲状腺眼症の病態の中心の甲状腺関連自己抗体が関係する眼窩内炎症によって、肥大した眼瞼挙筋が拘縮することが原因です。
この所見は左右非対称のことがあり、MRIの冠状断または矢状断で異常が目立つ側の眼瞼挙筋の肥大や炎症が確認できる場合があります。