• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

複視患者のMRI依頼は脳と眼窩

複視の原因の一部は脳の病気

複視は視線のズレによって左右の網膜像が対応しなくなり、左右の目の視界が水平、垂直あるいは斜めにズレて、話をしている相手の顔が2つ見える症状です。
斜位や共同性斜視の患者さんの融像機能が加齢で低下して起きる場合もありますが、眼球運動に関わる脳神経(3,4,6番)の麻痺やさらに高位の脳の障害で片目の眼球運動が障害された場合にも複視を生じます。
その原因となる脳腫瘍や脳梗塞、脳動脈瘤はMRI検査で確認できます。
そこで、複視を訴える患者さんを診察した診療所の眼科医が、近隣の脳外科病院に脳のMRI撮影を依頼することがあります。
しかしMRIで脳の異常が見当たらない場合、原因不明の眼球運動障害として大学病院の眼科に紹介されてきます。

甲状腺眼症による複視は多い

脳のMRIで異常を示さない複視の原因として、重症筋無力症(MG)やフィッシャー症候群などがあります。
しかし通常のMRI画像で見落とされやすいが、複視の原因として高頻度にみられるものとして、甲状腺眼症が重要です。
甲状腺眼症は甲状腺関連の自己抗体(TRAbやTSAbなど)による眼窩の炎症で、肥厚した上下内外の4直筋や上下の斜筋の伸展性の不良によって、眼球運動が障害されて複視を生じます。
ユーサイロイドと呼ばれる甲状腺ホルモンが正常な甲状腺眼症も少なくありません。

甲状腺眼症の診断には眼窩3方向と脂肪抑制T2強調

脳のMRI検査では通常、水平断面のみの画像が示されます。
眼窩腫瘍ならそのようなMRI画像でも診断できますが、甲状腺眼症でよく見られる下直筋の肥大は、顔の前後軸に垂直な冠状断面でないとよくわかりません。
甲状腺眼症を調べる際には眼窩3方向(水平断、冠状断、矢状断)の画像と、外眼筋の炎症による浮腫の所見がわかる[脂肪抑制T2強調画像]が必要です。
大学病院で再度のMRI撮影を行う無駄を省くために、最初に診た眼科医が、脳外科病院にMRI検査を依頼する際には、
[複視の原因になる脳の病変をMRI検査で調べてください]
と依頼するのではなく
[脳および眼窩内病変を調べてください]
あるいはさらに詳しく
[脂肪抑制T2強調の眼窩3方向像を含めた頭蓋内の撮像をお願いします]
と依頼すべきです。

  • 左上:上下複視を訴える患者さんの上方視時、右眼の上転制限がみられる。
  • 左下:眼窩冠状断、脂肪抑制T2強調のMRI画像。右眼(向かって左)の下直筋の断面が肥大して、かつ白く高信号を示し、炎症性肥大を示している。
  • 右上:右眼の矢状断。下直筋の筋腹が肥大して高信号を示している。
  • 右下:水平断の画像だけでは眼窩内炎症が捉えられず、甲状腺眼症による複視であることが見落とされる。