乳頭毛様短絡血管 Optociliary shunt vessel

乳頭毛様短絡血管 optociliary shunt vessels (veins)は視神経乳頭内部やその辺縁で屈曲蛇行する異常血管です。
視神経鞘髄膜腫ONSMで見られる場合はHoyt-Spencer徴候として有名です。https://meisha.info/archives/3561
ONSM以外でも慢性の頭蓋内圧亢進や網膜中心静脈閉塞症CRVOなどで、上昇した網膜中心静脈の圧を脈絡膜循環に逃がす側副血行路として観察されます。
Ruth A, Newman NJ: Images in clinical medicine. Regression of optociliary shunt vessels. N Engl J Med 355:1262.2006
日常臨床ではCRVOの経過中にしばしば観察されます。

症例：31歳女性

図左は初診後2カ月のCRVO眼の写真で、黄斑浮腫に伴う丈の高い漿液性網膜剥離を生じたため、抗VEGF薬硝子体注射を行いました。
1回のみの注射で浮腫と出血は吸収し、3か月後には視神経乳頭中央下方に屈曲する乳頭毛様短絡血管が確認されました（図中央黒矢印）。
7年後（図右）も安定化した異常走行血管として残っています。

乳頭毛様短絡血管はCRVOの予後良好因子

上記症例のようにCRVOで乳頭毛様短絡血管を生じると、治療なしあるいは、より少ない抗VEGF薬注射で黄斑浮腫が消退することが経験されます。
これは静脈内血栓によって上昇する静脈内圧が、シャント血管によるバイパス作用で低下するためと考えられます。

放射状視神経乳頭切開術 RON: Radial optic neurotomy

硝子体注射用の抗VEGF薬が利用できるようになる2006年頃以前、CRVOの黄斑浮腫に対してさまざまな治療が試みられました。
そのうち乳頭毛様短絡血管にヒントを得て行われたのが放射状視神経乳頭切開術 RONです。
視神経乳頭縁をナイフで突き刺して乳頭縁の結合組織を切開して、脈絡膜－網膜間のシャント血管の形成を促す目的の硝子体手術です。
Radial optic neurotomy: RONはTsuboi K et al: Chorioretinal Shunt Vessel in Eyes with Central Retinal Vein Occlusion after Radial Optic Neurotomy. Ophthalmology 125:1409.2018
RONほどは普及はしませんでしたが、拡張した網膜静脈自体をレーザーで強凝固してその下層の脈絡膜血管との間の直接吻合を形成して網膜静脈圧を逃がす治療も報告されています。
McAllister IL, Constable IJ: Laser-induced chorioretinal venous anastomosis for treatment of nonischemic central retinal vein occlusion. Arch Ophthalmol 113:456-62.1995