• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

小口病30年後の網膜色素変性

小口病1907年に小口忠太によって初めて報告された先天性の夜盲症です。

剥げかけた金箔]と形容される特異な眼底が長時間の暗順応で正常化する[水尾-中村現象]が有名です。
中澤満. 小口病 村上晶/吉村長久編[眼科臨床エキスパート]網膜変性疾患診療のすべて 医学書院.248-52. 2016

非進行性の夜盲症で、網膜色素変性でみられるような視野障害は伴わないと、かつては信じられていました。

アレスチンをコードするSAG遺伝子

原因遺伝子のSAGGRK-1のうち、日本人で報告された多くの小口病はSAGのc.924delA変異が原因です。
SAGがコードする蛋白はぶどう膜炎の原因であるS-抗原S-antigenとして有名ですが、visual cycleで光により活性化されたリン酸化ロドプシンに結合して反応を停止するアレスチンと同一です。

SAG遺伝子異常を示す網膜色素変性

一方でSAG日本人の網膜色素変性RP: retinitis pigmentosa https://meisha.info/archives/726原因遺伝子のひとつでもあります。
須藤希実子, 堀田喜裕. 網膜色素変性. In: 村上晶, 吉村長久, eds. 網膜変性疾患診療のすべて、眼科臨床エキスパート: 医学書院.265-82. 2016
かつて非進行性だと信じられてきた小口病の中に30年以上経過して網膜色素変性を発症するケースのあることが報告されました。
西口康二: SAG遺伝子変異スペクトラムとしての小口病と網膜色素変性 臨床眼科 75:1453-9.2021

症例

Sさん68歳女性は60歳ころからバドミントンのシャトルコックを見失うようになり、さらに最近夜間の運転が困難になったとして、近くの総合病院眼科を受診して大学病院を紹介されました。
矯正視力は1.2/1.2でゴールドマン視野は両眼対称性の輪状暗点でした。
超広角眼底カメラOPTOSで撮影すると特に左眼で周辺部に小口病特有の金箔様反射がみられました。
眼底自発蛍光ではリング状の過蛍光とその内部の低蛍光や黒色色素沈着もみられ網膜色素変性に合致する像です。

30年前の所見

Sさんは30年前の39歳時にも夜盲と眼底異常で同じ大学病院を受診していました。
その時は視力、視野は正常でしたが、著明に減弱したERG杆体反応水尾-中村現象から小口病と診断されていました。

小口病と網膜色素変性の関係についてはまだ未解決の点が多く、すべての小口病患者が将来網膜色素変性を発症するわけでもないようです。