脂腺癌https://meisha.info/archives/691は基底細胞癌とともに本邦の2大眼瞼悪性腫瘍のひとつです。
治療の基本は手術ですが、悪性腫瘍なので腫瘍細胞を取り残すと、局所再発、眼窩など周囲組織への浸潤、リンパ節転移などを生じます。
そうなると眼窩内容除去術で眼球を失ったり、腫瘍関連死で命を失ったりすることもあります。
Hsia Y et al.: Eyelid sebaceous carcinoma. Eye (Lond) 33:887-95.2019
手術では腫瘍周囲の正常部も含めて切除しますが、この切除範囲に含める肉眼的正常範囲をセーフティマージンsafety marginと呼びます。
顕微鏡的にはその部位にも癌細胞が広がっている可能性が高いためです。
腫瘍細胞の取り残しがないことを術中の迅速病理検査で確認するMhos micrographic surgery(モース術)という手術法もありますが、本邦ではあまり行われていません。
高比良雅之: 眼瞼脂腺癌の疫学、診断と治療. 日本眼科学会雑誌 124:391-3.2020
代わりに術後に永久標本での病理検査で完全切除を確認することになります。
その際セーフティマージンが小さいと[術後断端陽性]と判断されて、拡大切除や追加放射線治療が必要になります。
悪性度の低い基底細胞癌 BCCでのセーフティマージンは1-2mmとされています。
BCCよりも悪性度が高い脂腺癌で必要とされるセーフティマージンは一般には3-5mmですが、5mm以上とする術者も少なくありません。
眼瞼縁の長さは25-30mm程度です。
仮に横径10mmの脂腺癌で5mmのセーフティマージンをつけて切除すると20mmの眼瞼縁が失われます。
これを単純縫縮することは不可能でTenzel flap,Switch flap,Hughes flapなど形成外科的な種々の眼瞼再検術が必要になります。
福井歩美, 渡辺彰英 他: 眼瞼脂腺癌の臨床像と再建術後合併症の検討. 日本眼科学会雑誌 124:410-6.2020