視力をはじめ良好な視機能の実現には、眼球前面の角膜表面が涙で覆われて光学的に滑らかである必要があります。
角膜前面の涙の層は涙液膜(あるいは涙液層tear film)と呼ばれ、瞬目のたびごとに新たに形成されます。
瞬目時には上眼瞼のエッジが下方の涙液メニスカスに接触します(図左)。
開瞼時その涙を上方に引き上げることで、平滑で一様な厚みの涙液膜が角膜表面に形成されます(図右)。
その様子は涙をフルオで染めて青色光で観察するBUT検査時に観察できます。https://meisha.info/archives/614
20年前に白内障手術を受けて両眼とも1.0の矯正視力だったAさんは、3年前に右の眼瞼下垂手術を受けたころから右目の見えにくさを感じるようになり、0.7に低下した右眼矯正視力の原因が不明とのことで診療所の眼科から大学病院眼科を紹介されました。
眼底には異常なく、右目の視野全体がかすむ感じとのことです。
軽い兎眼で閉瞼時に右下方輪部角膜のわずかの露出はありますが(図左)、フルオレセインナトリウムで染めてもSPKは角膜下方に限局性で角膜中央には及んでいません(図右)。
しかしBUT検査を行うと、通常の瞬目では兎眼のため上眼瞼縁が涙液メニスカスに接触できず、その結果涙液膜が形成できないことが観察されました。
そこで眼科医の指で右の上まぶたを押し下げて、完全に閉瞼してから開瞼してもらうと、その直後には涙液膜が形成されて、右目ではっきり見えるとの自覚でした。
つまり角膜中央に上皮障害を生じるほどではないものの、軽度の右の兎眼のために通常の瞬目では角膜中央に平滑な涙液膜が形成されないことが軽度の視力不良の原因であると診断されました。
視力不良の原因がはっきりしたことで安心していただけましたが、日常生活ではそれほど不自由ないために、特別の治療は行っていません。