NTMとはnontuberculous mycobacteriaの略です。
抗酸菌(Mycobacterium属)は顕微鏡観察時に酸で脱色されない性質を示す細菌のグループです。
そのうち結核菌とらい菌を除いたすべてを非結核性抗酸菌 NTMと呼びます。
NTMが肺に病巣を作ると肺NTM症と呼ばれ、進行すると呼吸不全で死に至ることもあります。
NTMにはいくつかの種類がありますが、肺NTM症を発症する9割はMycobacterium avium (M. avium)とM. intracellulareでこの二つを合わせてM. avium complex (MAC菌)と呼び、その肺感染症は肺MAC症と呼ばれます。
近年増加傾向にある肺NTM症に対する治療の主体は抗菌薬内服で、代表的なレジメン(薬物治療の用量や用法、期間を定めた治療計画)ではCAM+EB+RFPを連日内服し、菌の培養が陰性化後も最低1年間続けるという長期に及びます。
(CAM:クラリスロマイシン、EB:エタンブトール、RFP:リファンピシン)
長谷川直樹 他: 成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解 2023年改訂. 結核 98:177-87.2023
EBは結核同様、肺NTM症においても強力な治療薬剤ですが、副作用として以下に示す特徴のEB視神経症が問題になります。https://meisha.info/archives/946
1. 結核治療におけるEB視神経症の発症頻度は1%前後です。それほど多くはないため視神経症が重篤だとしても、強力な抗結核薬であるEBは結核治療や肺NTM症治療の主役の座を維持しています。
2. 高用量投与や6か月以上の投与で発症頻度は増加(現在は15mg/kg/dayで最大投与量は750mg/dayですが、以前は60-100mg/kg/dayも投与されていました。)
3. 視神経疾患(特にレーベル遺伝性視神経症https://meisha.info/archives/993)があるとリスクは増大。
4. 多くの例で低下した視力はEB中止後に数カ月~1年かけて緩徐に回復しますが、数年かかる例や回復しない不可逆性の例もあります。
松本正孝:エタンブトールによる視神経障害-結核治療の立場から-. 結核 96:73-5.2021
5. EB中止後も症状の進行が数か月続くことがあります。
以下は上記4.と5.に該当するケースです。
Kさんは肺MAC症にてEBを1年間服用しましたが、内服中止後7カ月経過して左眼の視力低下を自覚し、その2カ月後に近医からY大学病院に紹介となりました。
矯正視力は0.9/0.2、EB以外の視神経障害の鑑別診断の検査を行いつつ経過をみたところ1カ月半後には0.1/0.02にまでさらに視力が低下しました。
他の視神経疾患が除外されEB視神経症と診断しましたが、視力障害が著しいので入院してステロイドパルス治療3クールを行いました。
半年後には0.3/0.2に改善しましたが、以後それ以上の改善はみられませんでした(図)。