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エタンブトール視神経症

抗結核薬であるエタンブトール(EB)の副作用として、視神経症が有名です。
EBには鉄、銅、亜鉛に対するキレート作用があり、視神経症発症に関わっている可能性があります。
三村治:中毒性視神経症. In 三村治, 谷原秀信, eds. 知っておきたい神経眼科診療: 医学書院.133-42. 2016
一方、結核だけでなくEBは現在、肺MAC (Mycobacterium Avium Complex)症にも標準治療として使用され、投与期間は長期にわたります。
肺MAC 症非結核性抗酸菌症(NonTuberculous Mycobacteriosis:NTM)に含まれ、近年増加傾向にあります。
そのため、眼科医がEB視神経症を経験する機会は増加しつつあります。

EB視神経症の症状

EBの内服開始後、4-12カ月で数%の患者さんに視力低下、霧視、中心暗点、両耳側半盲様視野異常、色覚異常などの症状がみられます。
治療はEBの中止ですが、投与中止後もしばらくは障害が進行する場合があるとされています。
中澤祐則:全身治療薬と眼障害、視神経障害. 眼科 61:145-51.2019

症例

非結核性抗酸菌症と診断された65歳の女性が、エタンブトール(EB)の投与開始8カ月後、両眼の見えにくさを訴えたため、EBが中止されました。
しかし2カ月経過しても改善がないため大学病院眼科を紹介されました。
矯正視力は0.5/1.0で、ハンフリー30-2視野検査では両耳側半盲様の変化でした。

細隙灯顕微鏡や眼底検査では、視力や視野の異常の原因となる変化は見当たりません。
視交叉を含む視路に関してMRI検査では異常はみられません。
また視神経脊髄炎のチェックのために行った抗AQP4抗体も陰性でした。
その後の経過で投与中止の4カ月後には自覚的にも見やすくなり、視力も1.0/1.0と回復しました。
右の視野は正常となり、左の視野には下方の弓状暗点だけが残りましたが、これはもともとの緑内障のためだと判断されました。
回復の経過はハンフリー視野のMDスロープのグラフでよくわかります。