強度近視の目では緩徐進行性に内斜視を生じて同側性複視を訴えることがあり、強度近視性内斜視や近視性斜視など種々の名称で呼ばれています。https://meisha.info/archives/5093
原因は眼軸長の延長で眼球後部が上直筋SRと外直筋LRの間から脱出するためで、その様子は眼球後極よりやや前方での眼窩冠状断MRI像で観察できます。
図の上段は水平断、下段は上段点線部での冠状断のMRI像です。
SR、LRと眼球(G)それぞれの中心(黄色の丸)を結ぶ赤線のなす角SGL角は左の正常者では直角に近い角度ですが、右の強度近視性内斜視(66/F、IOL眼で眼軸長28mm)ではこの角度(脱臼角と呼ばれる)は180度ほどに増加しています。
山口真, 横山連: 固定内斜視. 神経眼科 38:257-62.2021
一方、高齢者において比較的小角度の同側性複視を生じる遠見内斜型のsagging eye 症候群https://meisha.info/archives/5103では、眼球赤道部あるいはそれよりもやや後方の冠状断MRI像でLR-SRバンドの延長/菲薄化/消失とLRの下方偏位がみられ診断上重要です。https://meisha.info/archives/2663
中等度~強度近視の高齢者で遠見中心に同側性複視を訴えるケースでは、直角をはるかに超える脱臼角とLR-SRバンドの延長の両者が観察されることがあり、診断が悩ましいことがあります。
Kさんは運転時に側方視での水平複視を自覚するようになりました。
屈折は-8/-8.5Dの強度近視で矯正視力は1.2/1.2です。
顔貌はsagging eye 症候群の特徴である上眼瞼溝の陥凹と軽度の眼瞼下垂が両側でみられ(図左上)、ヘス赤緑試験は共同性の内斜視に近いパターンです(図左下)。
冠状断MRIではsagging eye 症候群の特徴のLR-SRバンドの延長菲薄化とLRの下垂がみられましたが(図右上)、もう少し後方の冠状断ではSRとLRの成す角が大きく近視性斜視の特徴も備えていました。
ただし正面視では複視の自覚はなく側方視での複視も変動するため経過観察となりました。