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Sagging eye 症候群の 2 つのタイプ

遠見内斜視型と上下回旋斜視型

sagging eye 症候群が訴える複視は遠見でのわずかのズレです。
そのズレの方向は、水平と上下の2通りです。https://meisha.info/archives/4508(両者が組み合わさることもあります。)
水平複視のタイプは同側性でDPEまたはARDEと呼ばれ、上下複視のタイプはCVSと呼ばれます。https://meisha.info/archives/2717

2タイプに分かれる理由

いずれも老化による眼窩プーリーhttps://meisha.info/archives/2709の劣化が原因です。
そのようすは、外直筋と上直筋を結ぶ結合組織であるLR-SRバンドの異常(伸展elongation、断裂rupture、欠損disappearance)とそれに由来する外直筋プーリーの下垂として、冠状断のMRIで確認できます。https://meisha.info/archives/2717
これらの構造的障害が左右対称性であれば遠見内斜視で同側性複視を訴えるDPE(あるいはARDE)を生じ、左右非対称であれば外直筋の下垂側が下斜視で外方回旋する上下回旋複視のCVSを生じます。
河合愛実: Sagging eye syndromeと類似疾患. 神経眼科 38:263-8.2021

DPE(ARDE)の症例、83歳女性

Oさんは5年前から自覚し始めた水平性の複視が増悪したとして大学眼科を紹介されました。
矯正視力は0.7/0.8ですでに両眼IOL眼ですが、眼軸長は24/24mmで強度近視ではありません
遠見で18△、近見で4△base outの内斜視でした。
両側の上眼瞼溝の深さが目立つ顔貌です。https://meisha.info/archives/2717
MRIではLR-SRバンドが軽度伸展して、両外直筋が眼球中心を結ぶ図の赤点線よりも下方に偏位しているのがわかります。
メガネにフレネル膜プリズムをbase outで貼ると症状は改善しますが、見え方は安定しないので手術を検討中です。

CVSの症例、72歳男性

Fさんは5年前に近医で両眼のPEA/IOL手術https://meisha.info/archives/793を受けてよくみえるようになりましたが、その半年後から上下ズレの複視を自覚するようになり、その程度が強くなったとして大学眼科を紹介されました。
顔貌は左に強い上眼瞼溝の深化と右の軽度眼瞼下垂がみられます。
矯正視力は1.0/1.0。遠見で12△、近見で6△の左下斜視がみられ、ヘス赤緑試験でも確認できます。https://meisha.info/archives/4866
MRIでは外直筋の下垂が左で目立ちます。
8△base upの膜プリズムをメガネの左眼に貼ることで複視は消失しました。