Sagging eye症候群SESは2013年に初めて報告された新しい概念の病気です。
症状には2つのパターンがあります。
1. 開散麻痺型内斜視:divergence paralysis esotropia (DPE)
近方視では問題ないものの遠方視でわずかなズレの同側性複視を訴えます。
2. 上下/回旋斜視:cyclovertical strabismus (CVS)
軽度の上下複視+回旋複視を訴えます。
原因は内外上下の4直筋を結ぶ結合組織である眼窩プーリーhttps://meisha.info/archives/2709の加齢による変性です。
中でも外直筋LRと上直筋SRを結ぶLR-SRバンドはコラーゲンが豊富で、加齢によるコラーゲンの減少によって薄く弱くなり延長します。
Chaudhuri Z, Demer JL: Sagging eye syndrome: connective tissue involution as a cause of horizontal and vertical strabismus in older patients. JAMA Ophthalmol 131: 619-625, 2013.
図は上記論文に示されたLR-SRバンドの画像で、図中央のように複視症状がなくても高齢者では図左の若年者に比べるとLR-SRバンドは菲薄化して延長します。
SESではさらに進行して図右のようにLR-SRバンドが断裂することが示されています。
LR-SRバンドが断裂するとLRを支えるプーリーが下垂(sag)します。
左右眼のLRが対称性に下垂するとDPEが目立ち、非対称性に下垂するとCVSの症状を示すとされます。
原因は外直筋の解剖学的位置異常であって、外転神経の麻痺ではないので、衝動性眼球運動速度saccadic eye velocity は正常です。
眼位ズレは軽度のために患者さんは[二重に見える]という複視の症状ではなく、[ぼやける]と訴えることが多く、診断がつきにくい原因になっています。https://meisha.info/archives/2709
ただしそのぼやけは両眼での複視が原因なので、片目を隠すと消え、そのことが診断上重要です。
老化に伴う眼窩プーリーの菲薄化が原因ですので、発症は緩徐進行性です。
その点で、血管障害で突発性に発症する眼運動神経麻痺https://meisha.info/archives/1114とは区別できます。
眼窩内の炎症によって亜急性に進行する甲状腺眼症https://meisha.info/archives/423よりも緩徐な発症です。
緩徐な発症という点では、代償不全型上斜筋麻痺https://meisha.info/archives/2141や重症筋無力症https://meisha.info/archives/2193、あるいは近視性内斜視https://meisha.info/archives/1424との鑑別が重要です。
加齢によるコラーゲンの減少は挙筋腱膜の脆弱化や眼瞼の張りにも影響します。
そのためSES患者さんでは重瞼幅が拡大し、腱膜性眼瞼下垂を合併しやすくなります。
また上眼瞼溝は変形してsuperior sulcus deformityによる特徴的な顔貌を示しがちです。