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代償不全型上斜筋麻痺

斜筋麻痺の特徴は外方回旋偏位内転時の下転障害です。
その病型は大きく3つに分類されます。
岡本真奈 他: 代償不全上斜筋麻痺と後天滑車神経麻痺の手術術式の比較. 眼科臨床紀要 5: 55-58, 2012.

このうち先天上斜筋麻痺では健側へ頭部傾斜head tiltする頭位異常が幼小児期からみられます。https://meisha.info/archives/2121
後天性に回旋複視と上下複視を訴えるのは、頭部外傷や脳血管障害などが原因の滑車神経麻痺です(頭部外傷による両側性の麻痺では上下複視は目立たず回旋複視が主体です)。
古森美和: 滑車神経麻痺. あたらしい眼科 34: 841-842, 2017.
上斜筋麻痺と診断されるもう一つの病型は代償不全型で、上下複視で後天性に発症します。

代償不全型の原因

先天上斜筋麻痺では頭部傾斜と広い融像機能によって両眼視機能が維持されるので、複視の症状なしに成長することがあります。
しかし融像機能が低下すると眼位ズレを代償できず、後天性に上下複視を訴えるようになり、代償不全型の上斜筋麻痺と診断されます。
古森美和: 上斜筋麻痺. あたらしい眼科 33: 1713-1720, 2016.

代償不全型上斜筋麻痺の治療

症状は患側の上斜視による上下複視がメインですが、外方回旋偏位による回旋複視を伴うことも少なくありません。
そこで上下複視に対しては患側の上直筋後転を行い、回旋複視に対しては下斜筋減弱術を追加する手術が多く行われてきました。
岡本真奈  他 : 代償不全上斜筋麻痺と後天滑車神経麻痺の手術術式の比較. 眼科臨床紀要 5: 55-58, 2012.
一方、近年、上下直筋の水平移動による回旋斜視矯正の容易さが広まり、上下複視に対しては健側の下直筋を後転し、さらに後転した下直筋を鼻側に移動することで下直筋の外方回旋作用を減弱、すなわち内方回旋効果を発揮する手術も行われるようになってきました。
林孝雄: 上斜筋麻痺に対する下直筋手術の長期経過. 臨床眼科 72: 393-399, 2018.

下直筋鼻側移動による回旋斜視矯正

下直筋は眼球の前後軸に対して鼻側後方に向かいます(図の赤矢印)。
その収縮力は下転方向と外方回旋方向の2つのベクトル (図の青矢印) に分解できます。
下直筋の鼻側移動https://meisha.info/archives/1756はその外方回旋方向のベクトルを減弱する結果、内方回旋の効果を生じます。