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回旋複視と手術治療

回旋複視はプリズムメガネでは対応できないことを前回解説しました。https://meisha.info/archives/1744

症例:52歳男性

Aさんは小脳動静脈奇形(AVM)からのクモ膜下出血で緊急入院して手術を受けました。
術後、テルソン症候群による硝子体出血https://meisha.info/archives/1842が左眼に見られましたが、それが吸収した後、複視を訴えました。
プリズムメガネで上下と水平の眼位は矯正できましたが、複視が消失しないとして紹介されました。矯正視力は1.0/0.8です。

ヘスチャートはV型斜視のパターンで右あるいは両側の滑車神経麻痺に矛盾しません。

水平、上下複視はわずかなので、回旋複視について眼前にかざしたボールペンの見え方を尋ねると、図のように右眼像が左眼像に対して内方回旋する回旋複視でした。(像の内方回旋は眼球が外方回旋していることを意味します。)
さらにマドックスMaddoxダブルロッドテストhttps://meisha.info/archives/1773で調べると、10-15度の回旋偏位が確認できました。

シノプトによる眼位検査では第一眼位で10-13度、下方視ではさらに大きな角度の(眼球の)外方回旋が確認されました。

両側の滑車神経麻痺による回旋複視と診断し、プリズムメガネでは矯正不能で複視解消には手術が必要と説明しました。
下直筋、鼻側移動術の回旋偏位に対する矯正効果は1筋腹当たり、片眼で5.6度、両眼で10.9度と報告されているので両眼に手術を行ったところ、術後、回旋偏位は消失しました。
Okamoto M et al: Surgical effects of nasal transposition of inferior rectus muscle – 135 cases of acquired superior oblique palsy. Clin Ophthalmol 9: 691-695, 2015.