• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

テルソン症候群

激しい頭痛の後、意識が消失して脳外科病院などに救急搬送されるくも膜下出血 SAH: subarachnoid hemorrhageでは、命をとりとめて病室で意識が回復した時に、片目あるいは両目が見えないことがあります。
これは硝子体出血 VH: vitreous hemorrhageのためでTerson症候群と呼ばれます 。
(Terson症候群の定義は1900年のTersonによる報告以後拡大され、SAHを含む頭蓋内出血に伴う、VHを含めた眼内出血とされるようになっています。
Liu X et al: Clinical features and visual prognostic indicators after vitrectomy for Terson syndrome. Eye (Lond) 34: 650-656, 2020.)
クモ膜下出血硝子体出血の関係はどうなっているのでしょうか?

くも膜下出血と硝子体出血

硝子体出血を生じる機序については古くから2つの説があります。
1. 網膜中心静脈圧上昇説:ひとつはくも膜下出血による頭蓋内圧亢進で視神経周囲のくも膜下腔の圧が上昇し、視神経乳頭から視神経内に流入する網膜中心静脈本幹が圧迫され、そのために上流にあたる眼球内の網膜中心静脈の枝や毛細血管から出血する説です。(図左下の挿入図の左ルート)

2. 直接流入説:もうひとつはくも膜下の出血が視神経周囲くも膜下腔に流入して、その血液自体が眼球内に直接流入するというものです。(図左下の挿入図の右ルート)
くも膜下腔から眼球内へ流入する経路については、くも膜下腔を通過する網膜中心動静脈周囲の潜在的な血管周囲腔を経由するという説が提唱されています。
池田恒彦: 臨床所見から考える網膜硝子体疾患の病態と治療. 臨床眼科 71: 471-489, 2017.
Sakamoto M et al: Magnetic resonance imaging findings of Terson’s syndrome suggesting a possible vitreous hemorrhage mechanism. Jpn J Ophthalmol 54: 135-139, 2010.

内境界膜下出血から硝子体出血

いずれの説にしても眼球内の出血はまず内境界膜下出血の形で生じ、そこから内境界膜の亀裂を通って硝子体出血に至ります。
内境界膜は網膜表面の比較的強靭な基底膜です。
いわゆる網膜前出血は内境界膜の下の内境界膜下出血と、内境界膜と後部硝子体膜の間の後部硝子体膜下出血に分類されます。
図は網膜細動脈瘤破裂による両出血の眼底写真と模式図です。

上記直接流入説に対して、硝子体手術中の観察では視神経乳頭に連絡するクロケ管後部硝子体前皮質ポケットposterior precortical vitreous pocket内に血液がみられなかったとして否定的な意見もみられます。
花井香織: くも膜下出血に伴う眼内出血”Terson症候群”の臨床像について. 神経眼科 37: 140-146, 2020.
しかしクロケ管や皮質前ポケットなどに出血がまわっても、これらのスペースには硝子体ゲルが存在しないため、硝子体手術の時期にはすでに赤血球が沈殿吸収されて存在しなかったとしても不思議はなく、直接流入説を否定する根拠にはならないように思えます。