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固定内斜視

固定内斜視は機械的な眼球運動制限により極端に内転した位置で眼球が固定された状態です。
山口真, 横山連: 固定内斜視. 神経眼科 38:257-62.2021
多くは強度近視に伴って片眼または両眼性にみられます。

強度近視眼の固定内斜視

強度近視眼の多くは眼軸が延長する軸性近視https://meisha.info/archives/933で、拡大した眼球後半部が外眼筋で境界される筋円錐というスペース内におさまらなくなります。
筋円錐は上下内外の4本の直筋で主に構成されていますが、外直筋から下直筋にかけての下半は下斜筋で、上内方は上斜筋腱で補強されています。
一方外直筋と上直筋の間には結合組織のプーリーであるLR-SRバンドhttps://meisha.info/archives/2709しかなく脆弱です。
そのため拡大した眼球後半部は上/外直筋の間から容易に脱出します。
これは一種のヘルニア状態であってその結果、外直筋収縮による外転と上直筋収縮による上転は制限されます。
その状態が高度になると眼球は内下転位で固定されます。

症例:49歳女性

Yさんは両眼とも強度近視で、しかもすでに左眼は裂孔原性網膜剝離https://meisha.info/archives/856のため失明しています。
眼球癆で角膜が白濁した左眼は上転と外転が不能で高度に内斜していて、外見的な眼位の改善を希望して受診しました。

MRIの冠状断撮影では、下図右上段のように左眼の眼球赤道部は上直筋と外直筋の間に分け入っています。
中段の眼球後部の断面では視神経に連絡する眼球後部が上直筋と外直筋の間から脱出しています。
(右眼でも同様の傾向で、そのために外転と上転の制限がありますが軽度でした。)

固定内斜視の治療は上直筋と外直筋の筋腹を縫合する横山法になります。https://meisha.info/archives/1424
左眼に対して行った手術後の写真では白濁した左眼が正面にきています。

なお類似した偏位眼球の固定状態には、先天性外眼筋線維症CFEOM: Congenital fibrosis of the extraocular musclesがありますが、こちらは上直筋と眼瞼挙筋の萎縮のため下直筋が拘縮して両眼球が下転位置で固定されます。https://meisha.info/archives/1158