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Sagging eye症候群 SES の認知度と眼窩プーリー

sagging eye症候群SES: sagging eye syndrome https://meisha.info/archives/2663の症状は両眼での複視ですが、像のズレがわずかなため多くの患者さんは[二重に見える]ではなく[ぼやけて見える]と訴えます。
そのため眼球運動障害による複視ではなく乱視や近視と判断されて何度もメガネを作り替えるなど、正しく診断されていないことがNHKの[ガッテン]最終回:2022/2/2で放送されました。

SESの代表的症状は遠見での同側性複視

図は両目でのぼやけの様子をSESの患者さんが描いた絵で、[ガッテン]で紹介されたものです。
おそらく左の車が前方を走る車を左目で見た像で、右の薄い車の絵が右目に見えた像です。
遠見での軽度の同側性複視https://meisha.info/archives/365の症状と考えられ、開散麻痺の症状に類似します。

眼科医でも認知度が低いSES

ガッテンの影響力は大きく、早速2週間後にはSESではないかと心配された患者さんが開業の眼科診療所から紹介されてきました。
その紹介状には[患者さんはサギングアイ症候群でしょうかとおっしゃるのですが、私には経験のない病気なので大学での検査をすすめました]とありました。

NHKの番組では、眼科研修医ガイドラインの令和2年度版に初めてSESが登場したことが紹介されていましたが、このガイドラインは眼科専門医試験をこれから受験しようとする若い眼科医の生涯学習のための指針です。
すでに眼科専門医を取得している多くの眼科医にとって最近のガイドラインに初めて登場したSESが耳慣れない病気であることはやむをえません。

原因はプーリー:pulleyの老化

片方の眼球には眼球を動かす筋肉は6本ありますが、そのうちの4本、すなわち内/外/上/下直筋は眼球の壁に付着して後方に向かって走行しています。
その4本を連絡している結合組織であるプーリー:pulleyが老化によって脆弱になることがSESの原因とされています。
後関利明: Sagging Eye Syndromeとは? あたらしい眼科 35: 333-336, 2018.

プーリーのうちでも上直筋と外直筋を結ぶLR-SRバンドの部分はコラーゲンの含有量が多く老化によって菲薄化や断裂が起きやすいとされていて、その画像は脂肪を抑制しない眼窩冠状断MRIで描出できます。https://meisha.info/archives/2663
LR-SRバンドの菲薄化や断裂によって外直筋を支えるプーリーが下垂して外転作用が減弱し、開散麻痺様あるいは上下/回旋複視などのSESの症状が出現すると考えられています。