• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

ピット黄斑症候群の網膜下液

視神経乳頭小窩(乳頭ピット)は先天奇形によってできた視神経乳頭内部の小さな窪み(小窩)です。
乳頭ピットの黄斑部に網膜剥離を生じることがあり、(乳頭)ピット黄斑症候群と呼ばれます。https://meisha.info/archives/5039

ピット黄斑症候群のFA

黄斑部に漿液性網膜剥離を生じる代表疾患である中心性漿液性脈絡網膜症CSCでは、網膜下液の由来は脈絡膜血流の血漿成分であることがフルオレセイン蛍光眼底造影検査FA: Fluorescein fundus angiographyでの蛍光漏出像で示されます。https://meisha.info/archives/1931
しかしピット黄斑症候群ではCSCのような造影早期からの明瞭な蛍光漏出は観察されず、造影後期になって乳頭ピット付近が過蛍光になる程度です。

そのためピット黄斑症候群での網膜下液の由来に関しては、硝子体液由来、髄液由来、網膜あるいは脈絡膜血流由来など諸説があり結論には至っていませんでした。

OCTでの知見

しかしその後の進歩したOCT観察で以下の点が明らかになりました。

1. ピット部位での強膜篩状板の欠損
2. 網膜剥離に先行する網膜分離内境界膜下、神経節細胞層、内顆粒層、外顆粒層のいずれの層でもみられる
3. ピット周囲の網膜への硝子体牽引
横井匡: ピット関連疾患および先天異常. Retina Medicine 8:43-8.2019
さらに硝子体手術でPVD作成とともに乳頭黄斑周囲で強固に接着する硝子体を切除すれば、ガス置換なしで網膜剥離が消失することが平形らによって報告されました。
現在、ピット黄斑症候群は大まかには以下の機序で発生すると考えられています。

ピット黄斑症候群の病態

1. 乳頭ピットでは強膜篩状板が欠如してその奥で視神経周囲クモ膜下腔に連続しているため、硝子体腔とくも膜下腔が交通している。
2. 眼圧(10-22mmHg)と髄液圧(5-12mmHg)の間の変動する圧較差のためにピット内で硝子体液の流れが発生する。(後部硝子体剥離PVDを生じていない状態でも乳頭前には液化硝子体が存在する。)
3. 網膜表面からピット内面にかけて強固に接着する硝子体線維牽引(下図白点線。図は硝子体手術後に復位しつつある眼のOCT像のため、網膜表面に接着する硝子体線維はすでにない)によって、乳頭縁での網膜断端からピット内水流の一部が網膜各層内に進入する。(下図赤点線)
4. この状態が進行して網膜分離が中心窩に達すると外境界膜の破綻部位から網膜内液が網膜下に流出して網膜剥離を生じる。

平形明人: 網膜剥離・網膜分離の治療と課題. 臨床眼科 73:689-709.2019