• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

Sagging eye症候群

高齢者が複視を訴えて受診した場合、頻度の高い原因として以下を検討する必要があります。
1. 眼運動神経麻痺https://meisha.info/archives/1114
2. 重症筋無力症https://meisha.info/archives/2193
3. 甲状腺眼症https://meisha.info/archives/423
4. 代償不全型上斜筋麻痺https://meisha.info/archives/2141
5. 近視性斜視https://meisha.info/archives/1424
6. 輻湊不全、開散不全
7. sagging eye症候群
大平明彦: 高齢者の複視. oculista 53: 28-34, 2017.

高齢者複視患者さんの鑑別

1. の眼運動神経麻痺は発症が突発性です。また動眼神経麻痺では眼瞼下垂を伴います。
眼瞼下垂を伴う場合は2. の重症筋無力症も考慮すべきです。また易疲労性や日内変動が特徴です。
上下複視に回旋複視を伴う場合は3. または4. の可能性が高いです。
5. の近視性斜視は強度近視眼にみられる内斜視で徐々に進行して高度の場合は固定内斜視と呼ばれます。
6. の輻湊不全は加齢による輻湊機能の低下で近見で交差性複視を訴えるものです。輻湊不全型の間欠性外斜視で見られることもあります。
逆に遠見でのみ同側性複視を訴えるのは開散不全と診断されることがあります。
最近、その一部は7. のsagging eye症候群であることが指摘されています。
後関利明: Sagging Eye Syndromeとは? あたらしい眼科 35: 333-336, 2018.

sagging eye症候群

sagging eye症候群は高齢者に多い小角度の眼位ズレによる複視が特徴です。
症状は徐々に進行性で両眼性の場合、遠見での同側性複視を生じます。
ただし患者さんは[二重に見える]よりも[ぼやけ]と訴えることが多く、注意が必要なことが2022年2月2日に最終回を迎えたNHKの長寿番組[ガッテン]で紹介されました。

sagging eye症候群とプーリーpulley

sagging eye症候群の原因は眼球赤道部で外眼筋をハンモック状に包んで支える結合組織のプーリーの異常と考えられます。
このうち外直筋LRと上直筋SRを結ぶLR-SR bandはコラーゲン線維が豊富で、脂肪を抑制しない冠状断眼窩MRI撮影で観察できます。
加齢によるコラーゲンの減少でLR-SR bandが菲薄化あるいは断裂すると、LRが内直筋MRの位置(図の赤点線)よりも下垂します。
両側性だと外転作用が弱まる結果、開散麻痺様の複視を生じ、片眼性では患側の下斜視と外方回旋偏位による上下/回旋複視を生じて滑車神経麻痺と誤診されます。

sagging eye症候群の顔貌

加齢によるコラーゲンの減少は目の周りの眼瞼皮下組織でも見られるため、患者さんは張りのない落ち窪んだまぶたをしていることが多いです。
図の66歳女性はヘス試験で内斜視のパターンを示し、MRIでsagging eye症候群と診断しました。

日本語の訳語はまだ定まっていません。
Sagは垂れ下がる、たるむという意味なのでたるみ目症候群がよいかもしれません。
ちなみに、日本眼科学会の用語集第6版には掲載されていません。