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甲状腺眼症での複視に対する治療

複視 https://meisha.info/archives/8 を訴えて眼科を受診する患者さんのうち甲状腺眼症は少なくありません。
特に上下複視の場合は滑車神経麻痺とともにまず考慮すべきでしょう。

図は甲状腺眼症の患者さんで、眼窩の炎症によって右の下直筋が肥大して伸びなくなっています。
患者さんには 上方視を命じていますが、右目の上直筋が正常に収縮しても拮抗筋である下直筋が緩まないので上転しません。
そのため右下斜視による上下複視を訴えます。

甲状腺眼症 という病気の仕組み は[甲状腺ホルモンと甲状腺眼症]https://meisha.info/archives/408
甲状腺眼症の診断に必要な血液検査 は[甲状腺眼症の血液検査]https://meisha.info/archives/420を参照ください。
甲状腺眼症による複視を診断する画像検査(MRI)は[複視患者のMRI依頼は脳と眼窩]https://meisha.info/archives/27で解説しました。
それでは複視の原因が甲状腺眼症と診断できた場合、その治療はどうなるでしょうか?

急性期は免疫反応を収めるステロイドパルスと放射線治療

甲状腺眼症 急性期の 治療はステロイドパルスまたは眼窩放射線治療です。
甲状腺眼症 は自己免疫疾患で、自己の組織に対する自己抗体が悪さをしています。
この免疫システムの誤作動を是正するにはステロイドを使いますが、抗炎症作用を期待する20-60mg程度のプレドニゾロンでは不足です。
免疫記憶を消去する抗免疫作用を発揮するために、通常メチルプレドニゾロン1000mgのパルス治療が必要です。
代わりに20Gyの眼窩放射線治療も有効で両者の併用も効果的です。
ただし、このような治療によって眼窩での自己免疫性炎症を抑え込むことができても、複視の症状は通常残ります。

斜視手術は慢性期後遺症の複視に対する治療

複視は急性期の眼窩炎症が収まった後の慢性期後遺症と捉える考え方が妥当です。
そこでMRIでの脂肪抑制T2強調像で眼窩炎症が鎮静化したことを確認したうえで、複視解決のための斜視手術を計画します。
眼窩の炎症が収束していなければ、手術で眼位を矯正しても、継続する炎症で再び複視を生じるからです。
よく経験する下直筋の伸展障害による上下複視に対しては、下直筋後転術が行われます。
正面視および下方視で両眼単一視を可能にすることが目標です。


甲状腺眼症では上下複視だけでなく、外方回旋による回旋複視を伴う場合も多く、その場合は下直筋の鼻側移動で対応します。
図は右下直筋の伸展障害による右眼の上転障害と外方回旋偏位の患者さんの複視の像です。
[複視の像は視線の向きと逆方向]https://meisha.info/archives/365を参照下さい。