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水排出不全型と水流入型の漿液性PED

高齢者にみられるPEDのうち抗VEGF薬注射の効果が期待できるのは血管性(vascularized) PEDであることを前回説明しました。https://meisha.info/archives/1905
その際に登場した非血管性(non-vascularized) PEDには、漿液性PEDとして水排出不全型水流入型PED、それに癒合したドルーゼによるドルーゼ様(drusenoid) PEDhttps://meisha.info/archives/1219が含まれます。

水排出不全型の漿液性PED

網膜色素上皮RPEにはポンプ機能があって、網膜下から脈絡膜側へ水を排出しています。
その際に水が通過するブルッフ膜に脂質が多量に沈着すると、その親水性が失われて水が移動できず、ブルッフ膜とRPEの間に水が貯留します。
そのような機序で生じる漿液性PEDは水排出不全型PEDと考えられます。
Bird AC: Doyne Lecture. Pathogenesis of retinal pigment epithelial detachment in the elderly; the relevance of Bruch’s membrane change. Eye (Lond) 5 ( Pt 1): 1-12, 1991.
飯島裕幸: 加齢黄斑変性 臨床の疑問(疑問1) 高齢者の漿液性網膜色素上皮剥離は滲出型AMDか? 眼科 56: 417-423, 2014.

水流入型PEDの典型は若年者のCSC

一方、水流入型漿液性PEDは比較的若年(30-40代)に多い中心性漿液性脈絡膜症CSCの目にみられることの多いPEDです。
CSCでは漿液性網膜剥離SRD: serous retinal detachmentだけでなく漿液性PEDが黄斑部に見られます。
多くのSRDが数カ月で自然消退するように、PEDも自然に吸収します。

図は47歳男性で右眼矯正視力は1.2、初診時に中心窩の鼻側脇の小さなPEDと少量の黄斑部SRDがみられました。
無治療の経過観察で3か月後にはSRDがほぼ消失し、4年後にはPEDも目立たなくなりました。
その後PEDは再発しましたが、視力は正常で変化ありません。

CSCにおける脈絡膜由来の水流入

CSCでは脈絡膜由来の血漿成分が黄斑部の網膜下に網膜下液として貯留します。
OCT像でみられる脈絡膜肥厚(pachycoroid)脈絡膜血管拡張(pachyvessel)、ICG蛍光造影検査(IA)中後期に多巣性にみられる脈絡膜過蛍光所見などは、CSCの原因としての脈絡膜循環異常を支持します。
丸子一朗: 中心性漿液性脈絡網膜症. あたらしい眼科 34: 1661-1667, 2017.
図は56歳男性の右眼の慢性CSCでPEDはありませんが遷延するSRDがあり矯正視力は0.3です。
中心10度の視野でも傍中心暗点が確認され、中心窩付近の外顆粒層(視細胞の核が存在)が菲薄化しています。
半量投与の光線力学的療法PDTを施行した2カ月後にはSRDは消失しましたが、視細胞内節外節を反映するEZが中心窩付近で途絶えているため視力は不変でした。

上記の症例では広角撮影でのIA像で下耳側の渦静脈が拡張して黄斑付近で過蛍光を示しました。
この像は黄斑浮腫を生じる網膜静脈分枝閉塞症の所見に類似します。
拡張した閉塞網膜静脈分枝から漏出した血漿成分が黄斑浮腫を生じるように、拡張した渦静脈から溢れた血漿成分が黄斑部のPEDやSRDを生じているのではないかと考えられます。
肥厚した脈絡膜をもつ目の漿液性PEDは脈絡膜由来の水流入が原因と考えています。