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PEDのタイプと抗VEGF薬注射

社会的失明原因のひとつ、加齢黄斑変性AMDの目に、網膜色素上皮剥離PED: retinal pigment epithelial detachmentが見られることはよくあります。https://meisha.info/archives/1219
そのためか抗VEGF薬硝子体注射を勧められて大学病院へ紹介されるPEDの高齢患者さんは少なくありません。
果たしてPEDだけで抗VEGF薬注射は必要でしょうか?

無治療で回復するPED

PCV(ポリープ状脈絡膜血管症)やタイプ1 CNV(脈絡膜新生血管が網膜色素上皮下にあるタイプの滲出型AMD)に伴ってみられるPEDの目は、治療しなければ黄斑部に網膜下出血を生じて視力が障害されます。
一方で無治療の自然経過で障害なしに回復するPEDも少なくありません。
図の72歳の患者さんの右の眼底には比較的大きなPEDの上にわずかの網膜下液の貯留がみられ、矯正視力は0.1でした。
造影検査(FA:フルオレセイン;IA:インドシアニングリーン)で異常血管像が見られなかったために無治療で経過をみたところ、6か月後にはPEDも網膜下液も吸収されて視力は0.9まで回復しました。

PEDの分類

PEDはいくつかのタイプに分類されます。https://meisha.info/archives/1219
隆起したRPEとブルッフ膜の間の貯留内容に注目すると、漿液性PEDドルーゼ様PED線維血管性PEDに分類されます。
また新生血管の有無によって血管性(vascularized) PED非血管性(non-vascularized) PEDに分かれます。
Tan ACS et al: A Perspective on the Nature and Frequency of Pigment Epithelial Detachments. Am J Ophthalmol 172: 13-27, 2016.
ちなみに表にはないタイプ2 CNVでは脈絡膜由来の新生血管CNV: choroidal neovascularizationが網膜色素上皮RPEを突き破ってRPEの上、すなわち視細胞の下の網膜下に這い上がってきているので、PEDは通常生じません。
またタイプ3 CNVと呼ばれる網膜血管腫状増殖RAP: retinal angiomatosisでは網膜由来の新生血管が網膜下に向かって伸びていって脈絡膜由来のCNVと合流するので、その過程でPEDを生じるようになります。

表の非血管性PEDに分類される水排出不全型漿液性PEDは、ブルッフ膜に沈着する脂質のために親水性が低下して、網膜→脈絡膜の水排出が滞って生じる加齢性のPEDを指します。
Bird AC: Doyne Lecture. Pathogenesis of retinal pigment epithelial detachment in the elderly; the relevance of Bruch’s membrane change. Eye (Lond) 5 ( Pt 1): 1-12, 1991.
飯島裕幸: 加齢黄斑変性 臨床の疑問(疑問2) 血管病変を伴わない網膜色素上皮剥離は治療対象か? 眼科 56: 629-634, 2014.

表の右欄の血管性PEDに挙げた種々のタイプの病変では新生血管が原因で、その成長に必要なVEGFをブロックする抗VEGF薬硝子体注射は効果的です。
しかし、非血管性PEDの欄の病気ではVEGFの関与はわずかで、抗VEGF薬治療は不要です。

出血性PED

血管性で漿液性のPEDでは、新生血管からの出血がPED内部に貯留することがあり、出血性PED (hemorrhagic PED)と呼ばれます。
FA像では出血部のブロック低蛍光漿液部のpooling過蛍光が水平線で境界される像がみられます。
図はPCVにみられた出血性PEDです。

このような血管性(vascularized) PEDを放置すれば、新生血管の成長に伴う出血や滲出で高度の視力障害を生じるので、抗VEGF薬注射などの治療が必要になります。