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緑内障が禁忌とされる薬

病気Aに効果を発揮する治療薬Xが、別の病気Bにとって致命的な悪影響を及ぼすことがある場合、BはXの禁忌薬と呼ばれます。
緑内障治療点眼薬であるベータ遮断薬が気管支喘息に禁忌であることは有名です。

禁忌薬のリストは下記から見ることができます。
http://www.okusuri110.com/kinki/shipeikin/shipeikin_00top.html
このリストで、禁忌対象になる病気(上記の病気Bにあたる)として最も多いもののひとつが緑内障です。
そして緑内障を禁忌対象とする薬Xのほとんどは、抗コリン薬と呼ばれるグループの内服治療薬です。
抗コリン薬が用いられる治療対象の病気Aには気管支喘息、パーキンソン病、うつ病、腹痛、排尿障害など多くの病気が含まれます。
そしてその薬の使用説明書には、[禁忌、閉塞隅角緑内障(あるいは単に緑内障、狭隅角緑内障)の患者には投与しないこと]と記載されています。

抗コリン薬が緑内障に対して禁忌となる理由

抗コリン薬を緑内障の一病型である閉塞隅角緑内障や、その前段階の狭隅角眼(原発閉塞隅角症PACとも呼ばれる)の患者さんに投与すると、眼圧が急上昇して目が見えなくなり、激しい痛みに襲われます。
角膜と虹彩の間のスペースの前房は房水という液体で満たされていて、その産生と排出のバランスによって眼球の内圧である眼圧が一定に保たれています。

房水の排出口は隅角と呼ばれる周辺部の前房に面する線維柱帯で、眼球外の血管に連絡するシュレム管に接しています。
一方、虹彩の瞳孔縁には瞳孔括約筋(図中の灰色の小さな楕円)が輪状に走行していて、抗コリン薬を内服するとこれが緩んで瞳孔が広がります(散瞳)。
閉塞隅角緑内障や狭隅角眼では虹彩の周辺部分が角膜に近接しているため(図右)、抗コリン薬によって散瞳すると、虹彩の根元が前方および周辺に移動して線維柱帯を塞ぎ、房水の排出がストップして眼圧が急激に上昇します。
すると角膜が濁って目が見えなくなるとともに、目と頭が激しく痛む急性緑内障発作を起こすのです。

狭隅角眼に対する眼科治療

閉塞隅角緑内障や狭隅角眼では、散瞳剤点眼など抗コリン剤内服以外の原因で散瞳しても、急激な眼圧上昇をきたす危険性が高いので、眼科医はその予防として通常レーザー治療(レーザー虹彩切開術あるいはレーザー隅角形成術)、虹彩切除術、あるいは水晶体を薄い眼内レンズに置き換える白内障手術などの対応を行います。
そしてこのような治療を行っていれば、その後、散瞳剤を点眼しても、あるいは閉塞隅角緑内障に禁忌と記されている抗コリン薬を内服しても眼圧は上昇しません。

緑内障禁忌の注意記載は実際には役立たない

このような機序が理解できると、薬の添付文書に記載されている[禁忌、緑内障の患者には投与しないこと]という注意書きは実際には役立たないことがわかります。
まず、緑内障の病型の中でも最も多い原発開放隅角緑内障では、隅角は正常眼と同様の広い空間なので、散瞳による隅角閉塞は起こらず抗コリン薬の使用は問題ありません。
閉塞隅角緑内障やその前段階の狭隅角眼の患者さんは、眼科にかかったことがなければ、自分が閉塞隅角緑内障あるいはその仲間の病気であることは知りませんから、内科主治医から[緑内障ではありませんか?]と尋ねられても[いいえ]と答えることになります。
一方、すでに眼科にかかってこれらの診断がついている場合には、先に記載したようなレーザー治療や白内障手術などを通常は受けているので、抗コリン薬を使用しても問題ないことになります。
内科主治医から眼科医あてに、[緑内障と診断されているようですが、抗コリン薬を使用してよいでしょうか?]という問い合わせの連絡をいただくことはよくありますが、その答えは通常[緑内障ですが、すでに治療がされていて眼圧は上昇はしないので、抗コリン薬の使用は大丈夫]です。
抗コリン薬内服で眼圧が急に上昇する危険性がある閉塞隅角緑内障や狭隅角眼の患者さんは、自分がそのような目であることを知らない人たちなので、添付文書に禁忌の内容が記載されてあっても発見することは困難です。