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筋強直性ジストロフィの眼瞼下垂手術

筋強直性(緊張性)ジストロフィMyotonic dystrophyは進行性に全身の筋力低下と臓器障害を生じる遺伝性疾患です。
眼科領域でも白内障と網膜変性、眼瞼下垂などを生じます。
https://www.nanbyou.or.jp/entry/718

眼合併症に対する治療

2020年に[筋強直性ジストロフィ-診療ガイドライン 2020]が発表され、Foreground Question 12-2[眼科的合併症に対する治療介入はQOLを改善するか]に対する見解が107頁に示されています。

このうち白内障手術は推奨グレード1で積極的に勧められていますが、眼瞼下垂手術は推奨グレード2で、それほど推奨されてはいません。

症例:41歳女性Kさん

母親も筋強直性ジストロフィのKさんは35歳で同じ病気と診断され、下肢の筋力低下のために車いすの生活です。
37歳時に某大学病院で右の眼瞼下垂手術を受けましたがその後再発しました。
3年後、他県の療養施設に入所してそれまでの病院への通院が困難になったので、Y総合病院を紹介されて眼科の診察を受けました。

転院時初診

軽度の近視性乱視で下垂した眼瞼を挙上して測定した両眼の視力は0.6 (0.9) / 0.4 (0.9)です。
軽度の白内障以外には明らかな眼球の異常はみられません。
眼瞼下垂は右のほうが高度で正面視では右の瞳孔は隠れ、左の瞳孔がかろうじてみえる程度です(図左上)
両眼の内転と右の上転が高度に制限されていて外斜視です(図の5方向写真)。
右上眼瞼内側には眼瞼黄色腫https://meisha.info/archives/4635がみられます(図左下)。

再手術の是非

本人は眼瞼下垂の再手術を希望しましたが、両側の眼瞼を指で挙上すると交叉性複視を自覚します。
そこで眼瞼下垂の手術が成功しても斜視手術を受けなければ複視で苦しむことを説明しました。
さらに斜視手術を行っても、外眼筋萎縮による外斜視はCPEO(慢性進行性外眼筋麻痺)https://meisha.info/archives/1591同様、複視のない状態を実現することが困難なことも説明しました。
眼瞼下垂はあっても左目での単眼視で正面よりも下方視野が確保されている現在の方が、生活上はむしろベターであることを理解してもらい、手術なしで経過をみる方針となりました。