眼窩炎性偽腫瘍から特発性眼窩炎症そしてIgG4関連眼疾患

臨床病名：眼窩腫瘍

眼窩腫瘍は良性と悪性（癌と肉腫）の新生物neoplasiaだけでなく、臨床的には肉芽腫や炎症性腫瘤をも含む概念です。

眼窩原発病変の組織学的分類

1. 分離腫（dermoid cystなど）と奇形腫（hemangioma, lymphangioma, neurofibroma）
2. 間葉系腫瘍（脂肪腫/肉腫、線維腫/肉腫、平滑筋腫/肉腫、横紋筋腫/肉腫、軟骨腫/肉腫、骨腫/肉腫、いずれも良性と悪性があり腫/肉腫で区別する）
3. 神経系腫瘍（視神経鞘腫、視神経グリオーマなど）
4. 上皮系腫瘍（涙腺腫瘍）
5. 炎症性腫瘍（inflammatory peudotumor）

眼窩炎性偽腫瘍

これらのうち、5. の炎症性腫瘍は当時、眼窩炎性偽腫瘍 と呼ばれていました。
星野元宏: 名大眼科の22年間における眼窩炎性偽腫瘍32例の検討. 日眼会誌 84:28-42.1980

特発性眼窩炎症 IOI

その後1980-2000年頃にはリンパ球表面抗原の免疫組織学的な検査や遺伝子再構成検査など分子生物学的検査の発展によってリンパ増殖性疾患https://meisha.info/archives/2387が詳細に検査できるようになり、上記表に示した眼窩炎性偽腫瘍の中から8. のspecific pseudotumors とともに1. のlymphoid pseudotumorsが除かれて、特発性眼窩炎症 IOI: Idiopathic orbital inflammationという概念が一般的になります。
Yuen SJ, Rubin PA: Idiopathic orbital inflammation: distribution, clinical features, and treatment outcome. Arch Ophthalmol 121:491-9.2003

IgG4関連眼疾患 IgG4-ROD

一方、本邦から［高IgG4血症を伴う自己免疫性膵炎］が報告された2001年以後、全身諸臓器に関わるIgG4関連疾患 IgG4-related disease: IgG4-RDが注目され、眼科領域でも涙腺と唾液腺が両側で対称性に腫脹するMikulicz病がこれに含まれるとされました。
Kamisawa T, Zen Y, Pillai S, Stone JH: IgG4-related disease. Lancet 385:1460-71.2015
さらに涙腺病変だけでなく、眼球も含めた眼窩内の様々な組織のIgG4-RD病変はIgG4関連眼疾患 IgG4-related ophthalmic disease: IgG4-RODと呼ばれるようになります。https://meisha.info/archives/4986
しかしそこにはかつての眼窩炎性偽腫瘍やIOIに含まれた多くの病態が含まれると考えられています。
Goto H et al: Diagnostic criteria for IgG4-related ophthalmic disease. Jpn J Ophthalmol 59:1-7.2015