眼窩疾患のうちMRIで病型がある程度診断できる涙腺多型腺腫(図)や眼窩海綿状血管腫などは通常、外科的に全摘出されます。
一方、眼窩内組織の隙間を埋めるmoldingという広がり方をすることもある悪性リンパ腫などでは全摘出は困難です。
悪性リンパ腫は仮に涙腺などに病変が限局していても腫瘍の部分切除による生検で、病理検査やフローサイトメトリーなどを行い、放射線治療や化学療法など内科的治療を選択します。https://meisha.info/archives/2363
そのような治療選択をする眼窩疾患の多くはリンパ増殖性疾患orbital lymphoproliferative disordersと呼ばれます。
リンパ増殖性疾患とは何でしょうか?
IgG4関連眼疾患の頻度を調査した2013年の報告では、全国18施設から病理検査が行われた眼窩リンパ増殖性疾患の1014症例を解析しました。
Japanese study group of IgG4-related ophthalmic disease: A prevalence study of IgG4-related ophthalmic disease in Japan. Jpn J Ophthalmol 57: 573-579, 2013.
この研究では対象を
1. MALTリンパ腫
2. MALT以外の悪性リンパ腫
3. IgG4関連以外の眼窩炎症
4. IgG4関連眼疾患
5. IgG4陽性MALTリンパ腫
の5グループに分類しました。さらに3.のIgG4関連以外の眼窩炎症には
3-1. 反応性リンパ過形成 RLH: reactive lymphoid hyperplasia
3-2. リンパ球浸潤病変
3-3. 炎症性偽腫瘍(特発性眼窩炎症)
が含まれるとしています。
以上から、現状では眼窩リンパ増殖性疾患には以下が含まれると考えられます。
1. 悪性リンパ腫(MALTリンパ腫、濾胞性リンパ腫、DLBCLなど)
2. 反応性リンパ過形成(RLH)
3. IgG4関連眼疾患
4. 特発性眼窩炎症の一部
5. サルコイドーシスなど特異的眼窩炎症でのリンパ球浸潤
反応性リンパ過形成(RLH)は臨床像や病理像が悪性リンパ腫に類似するものの、遺伝子再構成検査でモノクローナリティが否定された良性のリンパ球増殖疾患です。
眼窩領域にとらわれないIgG4関連疾患は21世紀になって登場した新しい疾患概念です。
高比良雅之: IgG4関連Mikulicz病からIgG4関連眼疾患への変遷. 臨床眼科 72: 358-361, 2018.
その中の眼科関連病態であるIgG4関連眼疾患の診断基準は2016年に発表されたばかりです。
後藤浩, 高比良雅之, 安積淳: IgG4関連眼疾患の診断基準. 日本眼科学会雑誌 120: 365-368, 2016.
そのためそれ以前にRLHや特発性眼窩炎症と診断された症例には、多くのIgG4関連眼疾患が含まれている可能性があります。
IgG4関連眼疾患の詳細は次回以後解説していきます。