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フィッシャー症候群

フィッシャー症候群(またはMiller Fisher syndrome:MFS)は急性に発症する両眼性の全外眼筋麻痺の原因として有名です。
Noioso CM et al.: Miller Fisher syndrome: an updated narrative review. Front Neurol 14:1250774.2023

図はフィッシャー症候群の回復初期で右眼の外転と両眼の下転が少し可能になってきていますが、それ以外の眼球運動はまだ麻痺しています。(この後1-2か月で眼球運動は正常化しました。)

しかしこのような完全型よりも、両側の外転神経麻痺など不全型のフィッシャー症候群のほうが多いとされています。

症例:39歳女性

両眼でみると物が左右にだぶってみえるとの訴えで内科を受診し、眼科を紹介されました。

両眼の外転が軽度制限されていましたが、図上段の写真でははっきりしません。
しかし下段のヘス赤緑試験https://meisha.info/archives/4608内斜視、開散麻痺または両側の外転神経麻痺のパターンです。https://meisha.info/archives/4866

しかし左右の側方視での同側性複視のズレが正面視よりも拡大したことから、内斜視や開散麻痺ではなく両側の外転神経麻痺と診断しました。
また急性の発症であることから、外転神経麻痺の原因としてフィッシャー症候群を疑い神経内科での精査を依頼しました。

神経内科で

詳しく病歴を尋ねると複視発症の20日前に38度の発熱と咽頭痛があり、その2週間後に両手掌のジンジンする感じがあったとのことです。
またMann肢位での両側のふらつきと両手掌での異常知覚がみられ、深部腱反射はアキレス腱反射が両側で消失していました。
さらに外注検査に出した抗GQ1b抗体が陽性だったのでフィッシャー症候群と診断されました。
ビタミン剤内服以外何もせず経過をみましたが、2か月後には複視は消失しました。

フィッシャー症候群

フィッシャー症候群は外眼筋麻痺、運動失調、腱反射消失を三徴とする免疫介在性神経疾患で、多くは感冒や下痢など呼吸器、消化器系感染症の1-2週間後に発症します。
胃腸炎症状を起こすCampylobacter jejuni や呼吸器症状を生じるHemophilus influenzaの菌体成分との交差反応で生じるとされる自己抗体抗:GQ1b抗体が、Ⅲ、Ⅳ、Ⅵなどの眼運動神経終末に発現しているガングリオシドのひとつ GQ1bに結合することで外眼筋麻痺を生じるとされています。
自然回復傾向 self-limitingが強く予後は良好です。
白井久美. Fisher症候群. 知っておきたい神経眼科診療: 医学書院.202-9. 2016

ガングリオシドGQ1b

ガングリオシド(Ganglioside)は糖鎖部分にシアル酸(ノイラミン酸の誘導体)を含むスフィンゴ糖脂質(糖鎖のついたセラミド)の総称で神経組織の細胞膜表面に多く存在します。
ガングリオシドのうちGM2が網膜神経節細胞に蓄積する先天代謝異常はテイザックス病として有名です。