ヘス Hess 赤緑試験 (Hess screen test)は眼球運動障害などによる複視の状態を記録できる便利な検査です。
検査は暗室内で行い、5度間隔の赤色マス目が投影されたヘススクリーン上の点を、緑色光の矢印で指し示し、その結果をヘスチャートに記録します。
指すのはマス目の中心とそこから15度離れた4辺でできる四角形の角4点と辺の中点の4点を合わせた9点です(図左の赤丸)。
その際に図右の右半のように左目に赤、右目に緑の赤緑メガネをかけると、左目には赤のマス目だけ、右目には緑の矢印だけが見えます。
右目の外転が制限される右の外転神経麻痺を例に説明しましょう。
図右の右半のように左目に赤、右目に緑のメガネでみると、健眼の左目ではマス目が見えて、患眼の右目には矢印が見えます。
図左では15度右の赤丸を指すよう指示していますが、外転が制限されている右目は四角の右辺まで目を動かせないので、緑矢印は正しい位置より2マス分だけ左方にズレた点を指しています。
9点の結果をヘスチャートに記録すると、[田]という漢字になりますが、図右の右半のように[田の四角]の右辺が左方に縮まった形になります。
これは赤ガラスの左目(健眼)でマス目を固視させた際の右目(麻痺眼)の結果になっています。
次に図右の左半のようにメガネの左右を逆にすると患眼の右目でマス目を固視し、健眼の左目で矢印を見ることになります。
外転が制限される右目で[田の四角]の右辺を見ようとすると、右目の外転方向に強い力が必要です。
その際に右辺を指す矢印が見える左目には、右方向(左眼の内転方向)に同程度の強い力が働くので、矢印は本来の位置よりも右側にずれて、ヘスチャートの[田の四角]の右辺が右方向に拡大した結果になります。
右方視の際に右目の外転と左目の内転で同じ強さの神経活動となるのはHeringの法則と呼ばれます。
以上の点が理解できるとヘスチャートの基本的な読み方が理解できます。
すなわち片目の眼球運動障害であれば、四角が小さいほうが麻痺眼で、縮まった方向の作用筋が制限されています。(共同性斜視https://meisha.info/archives/150で複視を訴える場合は、左右の四角は同じ大きさになります。)
作用筋の制限はその筋の麻痺のこともあれば、甲状腺眼症https://meisha.info/archives/423のような拮抗筋の伸展制限のこともあります。(甲状腺眼症では通常、両目の眼球運動が障害されて複雑なヘスチャート結果になりますが、図右の例では右眼の下直筋に限局した炎症がみられました。)