パクリタキセル(PTX)やアブラキサン(nab-PTX)などタキサン系抗癌剤は、細胞分裂の際に出現する紡錘体の微小管の脱重合を阻害することで抗腫瘍効果を発揮します。
その眼科副作用として黄斑浮腫は有名ですがhttps://meisha.info/archives/4186、角膜上皮障害を生じる場合もあります。
細谷友雅、他: 乳癌に対するnab-paclitaxel投与が原因と考えられた角膜障害の1例. 日本眼科学会雑誌 120:449-53.2016
3年前にY大学消化器外科で膵臓癌手術を受けましたが、1年半前に再発が確認されてGnP療法(ゲムシタビンGemcitabineとnab-PTXの併用療法)を開始しました。
半年後、近医眼科で角膜上皮障害による両眼の視力低下を指摘され、GnP療法を一時中断したところ角膜所見は改善し、視力も0.8/0.8にもどりました。
しかし今回GnP療法の再開により再度視力低下したとして大学病院眼科に紹介となりました。
矯正視力は0.2/0.2で、右眼角膜中央には上皮のクラックラインがみられ点状表層角膜症(SPK)https://meisha.info/archives/608が下方に広がり(図左)、左眼にも程度は軽いものの同様の変化がみられました。
両眼に後嚢下白内障がみられ、OCTにて両眼同程度の嚢胞様黄斑浮腫が確認されています(図右:上が右眼、下が左眼)。
角膜上皮障害と後嚢下白内障、および黄斑浮腫が合わさって両眼の視力低下を生じていると考えられました。
今後外科と相談の上抗癌剤の変更を検討することになっています。
角膜上皮障害を生じる抗癌剤としてはピリミジン誘導体である5-FUのプロドラッグ、テガフールを含む内服薬TS-1(S-1)が有名ですが、それ以外にも今回の微小管脱重合阻害作用のタキサン系薬剤やEGF受容体を標的とする抗癌剤も角膜上皮障害を生じることがあるとされています。
山田昌和: 全身薬による角膜障害. 眼科 61:119-23.2019