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EBによる不可逆性視神経障害

EB視神経症の視力予後

EB(エタンブトール)視神経症の発症頻度は1%程度で、しかも多くはEB投与を中止すれば、数カ月~1年をかけて回復します。https://meisha.info/archives/946
松本正孝:エタンブトールによる視神経障害-結核治療の立場から-. 結核 96:73-5.2021
しかし乳頭黄斑線維束に対応する網膜神経節細胞 RGCが脱落して不可逆性の高度の視力障害を残す例も存在します。

ミトコンドリア視神経症

薬剤性視神経症の代表であるEB視神経症は、メチルアルコール、シンナーなどの中毒性視神経症やビタミンB群欠乏による栄養欠乏性視神経症https://meisha.info/archives/3101と同様に、ミトコンドリア視神経症と考えられるようになっています。
EBのキレート作用により亜鉛などの血中濃度が低下して、高エネルギーを必要とする乳頭黄斑線維束を形成するRGCのミトコンドリア呼吸鎖複合体の電子伝達系に障害を生じて、EB視神経症を発症することが推定されています。
敷島敬悟:エタンブトール視神経症の診断と検査. 結核 96:78-81.2021

症例:66歳女性

肺MAC症https://meisha.info/archives/5615で経過観察されていたAさんは、60歳時に肺の所見が増悪したとして、K病院でCAM+EB+RFPの内服治療を開始し、中断期間を除く2年間、 EB 375mgを服用しました。
さらに63歳時に新たな肺浸潤影を認めたためEBは750mgに増量されて2年間続けました。
その間両眼の視力低下を自覚しましたが、B眼科医院で白内障と診断され手術目的で内科治療中のK病院の眼科に紹介されました。
そこではじめてEB視神経症を疑われEB投与を中止し、白内障の影響も考えられたので両眼の白内障手術を受けました。
しかし術後、矯正視力は0.2/0.2と改善なく、両眼の視神経委縮が明らかになりました。

転院後の大学病院眼科での所見

肺MAC症が遷延するため内科治療はY大学病院の呼吸器内科に転院になりました。
内科からY大学の眼科に紹介された初診時、矯正視力は0.2/0.2で両眼視神経乳頭が蒼白でした(図中段)
ハンフリー24-2視野(黄斑部の感度低下を正確に評価するには10-2がbetterでしたが)では中心視野の沈下がみられる程度です(図上段)
しかし図下段の黄矢印に示すようにOCTでは乳頭黄斑線維束に相当するnerve fiber layer: NFLが両眼でほぼ消失していました。(左眼の外網状層に小嚢胞腔が連なっていますがこれがEBの影響であるかどうかは不明です。)
(図下段右端は正常眼の水平断OCTで、赤矢印のNFLは乳頭に近いほど厚みが増している。)
今後の視力回復の可能性は低いと考えられます。