非感染性の特発性眼窩炎症 IOI(Idiopathic Orbital Inflammation) https://meisha.info/archives/5016でみられる眼痛、眼瞼の発赤腫脹、結膜浮腫、眼球突出、眼球運動障害などの症状所見は、感染症である眼窩蜂巣炎https://meisha.info/archives/5974と共通です。
そのためIOIを眼窩蜂巣炎と誤診してステロイドではなく大量の抗菌薬投与が行われることがあります。
鑑別にあたっては、白血球数WBCやCRP値など炎症所見がIOIでは軽微なことが参考になります。
平竹純一朗、他: 特発性眼窩炎症の臨床像. 神経眼科 40:32-7.2023

10日前からの左上眼瞼の腫脹と痛みに加えて上下複視もみられたため、脳外科病院を受診しました。
MRIで眼窩内病変を指摘されたためA病院眼科を紹介され、左の眼窩蜂巣炎の診断のもと抗菌薬の内服が開始されました。
しかし改善ないため3日後にY大学病院眼科に紹介されました。
すでに左上眼瞼の腫脹と痛みは軽減していましたが、左眼は全方向で運動制限がみられました。

CRPは正常範囲内で眼窩蜂巣炎よりもIOIが疑われましが、WBCが14,000と高値だったため、入院してまずは抗菌薬の点滴を開始しました。
しかし入院3日目でも眼球運動障害の改善が乏しいためプレドニゾロン PSL 60mg の内服から開始して漸減したところ1週間後にはヘス、MRIともに改善しました。
(図左は入院時、右は入院後1週間、上段:脂肪抑制MRI T2WIの冠状断と左矢状断、図下段:ヘス赤緑試験)

当初からみられたWBCの高値は症状改善後も12,000、20,000と持続していましたが、その原因は不明でした。
また初診時のMRIの主病変は左上直筋ですが、左眼の全方向での運動制限は、脳神経Ⅲ、Ⅳ、Ⅵ番が通過する眼窩先端部に炎症が及んでいたためと考えられました。