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急性発症する特発性眼窩炎症の典型病型

特発性眼窩炎症

特発性眼窩炎症 IOI: Idiopathic orbital inflammation眼窩内の占拠性病変として画像診断される良性で非感染性の臨床症候群です。
病理組織学的には新生物ではなく炎症病態のため、かつては眼窩炎性偽腫瘍 orbital inflammatory pseudotumorと呼ばれました。https://meisha.info/archives/5007
炎症の原因は不明で診断は除外診断によりますが、ステロイド治療によく反応することが特徴です。
Yuen SJ, Rubin PA: Idiopathic orbital inflammation: distribution, clinical features, and treatment outcome. Arch Ophthalmol 121:491-9.2003

IOIの典型病型と非典型病型

IOIの典型は疼痛を伴って眼瞼腫脹や結膜の浮腫充血を示す急性炎症病型です。
一方IOIの中には発症が目立たず気づかれにくい臨床経過の非典型病型も含まれます。(そのようなケースは頭部CTやMRIで偶然に発見されることも少なくありません。)
以下は急性の炎症所見で発症したIOIの典型例です。

症例: 53/F

某年12/5左上眼瞼が高度に腫脹して近医からA総合病院の眼科を紹介され、眼窩蜂窩織炎の診断にて抗菌薬の点滴治療を行うも改善なく、12/13に大学病院眼科を紹介されました。
34歳時に中咽頭の悪性リンパ腫(DLBCL)に対して抗がん剤治療を3クール行い、20年間再発はないとのことでした。
左の眼瞼腫脹と著明な結膜浮腫がみられるも、矯正視力は1.2/1.2と正常で、視野にも異常なしでした。
左上眼瞼には圧痛があり、眼眼球運動は左眼で全方向の制限がヘスチャートで示されています。

眼窩MRIでは上直筋と外直筋の間から眼球背側に及ぶ軟部組織陰影があり、T1WI, T2WIともに脳灰白質とほぼ等信号でした。
放射線科の読影では炎症性疾患が疑われ、IgG4関連眼疾患https://meisha.info/archives/4986悪性リンパ腫https://meisha.info/archives/2363が鑑別対象とされました。

血液検査でIgG4は7mg/dlと低値でしたが、20年前の中咽頭悪性リンパ腫の既往を考慮して、眉毛部皮膚切開にて腫瘤を生検しました。
病理結果は異型性に乏しい小型リンパ球が涙腺に浸潤する非特異的涙腺炎の像で、形質細胞のほとんどがIgG4(-)でした。
生検術後1週間で左の眼瞼腫脹は明らかに軽快しましたが、プレドニン30mgから漸減投与したところ1か月後には眼瞼腫脹は消失して眼球運動は正常化しました。
急性発症する特発性眼窩炎症の典型例であったと判断されました。