網膜の光受容器である視細胞には夜間働く杆体と昼間働く錐体があり、色覚は錐体の機能です。
錐体オプシンを何種類持つかで2色型、3色型、4色型という色覚の次元が決まります。
多く哺乳類以外の脊椎動物では4色型だった色覚が哺乳類では2色型色覚となり、4→2と次元が低下しました。
しかしその後の進化で、ヒトを含む霊長類では2→3と次元が上がり、3色型色覚を獲得しました。
爬虫類や鳥類はSWS1、SWS2、RH2、M/LWSの4種類の錐体を持つ4色型色覚でしたが、恐竜が繁栄していた中生代(2億4700万年前から6500万年前まで)に誕生した哺乳類https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/dino/faq/r02067.htmlは、恐竜が活動する昼間を避けて夜行性となったことで、4種類の錐体のうちSWS2とRH2の2種類を失って2色型色覚になりました。https://meisha.info/archives/3340
恐竜時代が終わり新生代になって繁栄した哺乳類のうち、最も進化した霊長類であるサルの仲間は、昼間の森で樹上の果物を主食にするようになります。
その際、緑の木の葉の間から見え隠れする赤や黄色の果実をすばやく見分けることができる生存上有利な形質として3色型色覚を獲得しました。
ただしその機序は哺乳類が失った2つのオプシンのうちのひとつを復活させたのではありません。
M/LWSオプシンの重複とアミノ酸置換によってLオプシンとMオプシンの2種類を獲得したのです。https://meisha.info/archives/1727
平松千尋. 第5章:サルの果物さがし:2色型と3色型の比較から迫る色覚の適応意義. In: 種生物学会編集. [視覚の認知生態学-生物たちが見る世界-]: 文一総合出版.115-50. 2014
多くのヒトは3色型色覚ですが、先天赤緑色覚異常の2色覚は2色型色覚で、異常3色覚も色覚特性は2色型色覚と類似します。https://meisha.info/archives/3312
これら先天赤緑色覚異常は男性の5%という高頻度にみられるので、淘汰されるべき劣性の形質ではなく、多様性として維持されているとの考え方があります。
2色型色覚が維持されてきた理由として、樹上生活から地上におりて狩りをするようになったヒトでは、草の色でカモフラージュされた動物を見分けやすい点があります。
黄緑-黄色のモザイク様の草原の色が見分けられる3色型色覚よりも、それらがモノトーンに見える2色型色覚のほうが、そこに隠れる動物のシルエットを発見しやすいと考えられます。
河村正二他. 第18章感覚にかかわる遺伝子. In: 井ノ上逸朗他, ed. ヒトゲノム事典: 一色出版.255-. 2021