正常なヒトの目は波長による光の吸収特性が異なる3種類の錐体によって、色の違いを見分けています。https://meisha.info/archives/1463
実験条件の違いによってばらつくものの、光の吸収ピーク波長はL錐体:560nm、M錐体:530nm、S錐体:425nm付近にあります。
北原健二: 色覚の分子生物学. 光学 26: 240-245, 1997.
https://annex.jsap.or.jp/photonics/kogaku/public/26-05-kaisetsu2.pdf
日本人男性の5%にみられる先天赤緑色覚異常の主たる原因は、L錐体、M錐体いずれかの欠如(2色覚)あるは異常(異常3色覚)です。
それぞれの錐体の視物質蛋白(オプシン)をコードするL遺伝子とM遺伝子はX染色体長腕上のXq28にあります。
正常眼ではL遺伝子の後ろに1個または数個のM遺伝子が配列します。
個々の錐体細胞ではXq28の最初の2個までの遺伝子、あるいは第7染色体のS遺伝子のいずれかのみのプロモーターに転写因子が結合して、視物質が作られます。
L、M遺伝子はともに6個のエクソンに分かれて364個のアミノ酸をコードしています。
そのうちの15個のみが両者で異なり、塩基配列においては98%という高い相同性のため、交叉による相同性組み換えhomologous combinationによってハイブリッド遺伝子ができます。
組み換えは遺伝子の塩基配列のどこでも生じ得ますが、エクソン5に含まれる277番目と285番目のアミノ酸残基が正常L遺伝子由来(Tyr277/Thr285)であればL遺伝子の吸収波長特性に近いL’遺伝子(M-Lハイブリッド遺伝子)になり、正常M遺伝子由来(Phe277/Ala285)であればM遺伝子に近いM’遺伝子(L-Mハイブリッド遺伝子)となります。
組み換えとハイブリッド遺伝子によって、1型、2型の2色覚または異常3色覚の4種類の先天赤緑色覚異常の違いhttps://meisha.info/archives/1463が説明できます。
すなわち正常3色覚ではL/M/S、1型2色覚ではM/S、1型3色覚ではM’/M/S、2型2色覚ではL/S、2型3色覚ではL/L’/Sの遺伝子によって発現する2種類あるいは3種類の視物質を有することになります。
村木早苗: 先天赤緑色覚異常の遺伝子. 日本の眼科 83: 594-598, 2012.
L’, M’ハイブリッド遺伝子による視物質の吸収ピーク波長はそれぞれL, M遺伝子のピーク波長から0-9nm程度ズレていて、その程度によってパネルD15テストによる色覚異常程度の差(PassまたはFail)が説明できる可能性があります。
林孝彰他: 男性先天赤緑色覚異常者における遺伝子診断の有用性. 臨床眼科 62: 1589-1594, 2008.