脈絡膜メラノーマhttps://meisha.info/archives/1669は放置すれば肝転移などで死に至る眼内悪性腫瘍です。
人種差(黒人<黄色人種<白人)のため日本での年間発症は数十例程度で、通常は片眼性です。
しかし米国での原発性ぶどう膜メラノーマを調査した1996年の論文[両眼性ブドウ膜メラノーマ:Bad luck or bad genes?]では4500例中8例0.18%が両眼性でした。
この値は、片眼性疾患が偶然に両眼に生じたと仮定した場合の統計学的な期待値よりもはるかに大きい(p<0.0001)ため、遺伝要因など両眼発症素因の存在が疑われています。
Singh AD et al: Bilateral primary uveal melanoma. Bad luck or bad genes? Ophthalmology 103:256-62.1996
Fさんは50歳時に他県A病院で右眼網膜剥離に対する手術(Vitrectomy+PEA/IOL)を受け、術後良好な視力を回復していましたが、その1年半後の52歳時、両眼の視力低下、充血、前房内炎症を生じ、VKH(原田病) https://meisha.info/archives/1720を疑われてY大学病院眼科を紹介されました。
矯正視力:0.4/0.04、眼圧:16/10mmHg、右眼:IOL眼、左眼:白内障。
眼底像は両眼同様で、IOL眼のためクリアな眼底観察が可能な右眼の眼底自発蛍光像で斑状の多発低蛍光像が示され、OCT画像で網膜下に腫瘍を疑わせる細胞浸潤が示されました。
眼内原発リンパ腫を疑って左眼のVitrectomy+PEA/IOLにて硝子体液を採取しましたが、リンパ腫細胞から分泌されるIL10は低値で否定的でした。
原因不明のぶどう膜炎のまま紹介元のA病院でのフォローとなり、2年後には続発緑内障で両眼失明したとのことです。
左眼手術の9年後、62歳時、障害年金の診断書目的でA病院眼科を受診した際に両眼の結膜下に多発する黒色隆起病変がみられ、再度Y大学病院眼科を紹介されました。
脈絡膜メラノーマの強膜浸潤が疑われまず左眼を眼球摘出したところ、脈絡膜メラノーマの病理診断で右眼も摘出しました。
摘出された両眼球の網膜面にびまん性に広がる黒色病変には、明らかな結節形成はみられません。
Callender分類で混合型の悪性黒色腫で、強膜浸潤は陽性ですが視神経浸潤は明らかではありません。
なお腫瘍細胞の悪性度を示すKi-67 indexは0 – 1%でした。
9年前に眼内悪性リンパ腫を疑ったOCTでの網膜下浸潤はメラノーマ細胞だったと考えられますが、全身CT検査などでも眼外転移巣は発見されず、Ki-67 index低値と併せ、何らかの素因で両眼性に発生した低悪性度の脈絡膜メラノーマであったと推測し、皮膚科とも相談した結果、全身的な抗がん剤治療は行わず、経過観察としました。