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眼梅毒の黄斑部病変:ASPPC

ASPPC:acute syphilitic posterior placoid chorioretinitisは梅毒に特徴的な黄斑部病変として、1990年Gassによって報告されました。https://meisha.info/archives/4692
Gass JD et al: Acute syphilitic posterior placoid chorioretinitis. Ophthalmology 97:1288-97.1990

ASPPCのOCT所見

当時、画像診断は蛍光眼底検査に限られていましたが、2000年以後の急速なOCTの進歩により病態の理解が深まりました。
19例30眼の治療例のOCTをまとめた報告では、表の3つの病期が区別されています。
Pichi F et al.: Spectral domain optical coherence tomography findings in patients with acute syphilitic posterior placoid chorioretinopathy. Retina 34:373-84.2014

症例:61歳男性

Kさんは左眼のゆがみを自覚して近医を受診し、左眼中心窩にOCTでわずかの網膜下液(図左)がみられたため、左眼のCSC(中心性漿液性脈絡網膜症)https://meisha.info/archives/1931と診断されましたが、視力は0.3/0.04と両眼とも不良でした。
大学病院眼科に紹介された2週間後の視力は0.1/0.05で、すでに網膜下液は消失して、代わりに両眼でEZの消失とRPE上の結節状の隆起(図右中段)が見られました。

眼底自発蛍光では両眼対称性に過蛍光像(上図右下段)がみられたために、AZOORと診断https://meisha.info/archives/3815してステロイドの内服(PSL80mg)投与を開始しました。

その後の経過

しかし1週間後の再診時に梅毒血清反応(PRPとTPHA)陽性が確認され、ASPPCと診断してステロイド投与は中止、ペニシリン製剤(アモキシシリン)1500mgの投与を開始しました。
2か月後、視力は0.3/0.5に改善し、OCT像もほぼ正常に回復しました。

補足

上記の2014年の論文ではペニシリンで加療された多くのケースで1.0の視力回復がみられたにもかかわらず、今回のケースでは視力回復が不十分でした。
その理由として以下の点が考えられました。

1. 最初にステロイド投与(中等量、1週間)を行い免疫機能を低下させたこと、
2. 治療開始まで3週間経過したこと、
3. ペニシリンGの大量静注ではなく内服投与で治療が不十分だった可能性

また急性期のASPPCで眼底自発蛍光が過蛍光を示す理由として、自発蛍光を発するレチナール代謝産物障害されたRPE細胞が適切に処理できないことが想定されています。