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梅毒によるASPPC: acute syphilitic posterior placoid chorioretinitis

性感染症である梅毒は世界的に増加傾向です。
日本では2012年(平成24年)までは年間届け出数が千人未満でしたが、10年後の2022年には1万人を超えるという急激な増加を示しています。https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201712/3.html

眼科領域での梅毒

欧米で眼梅毒ocular syphilisと呼称される梅毒性眼疾患では、角膜実質炎、ぶどう膜炎、網脈絡膜炎、視神経炎、強膜炎、眼瞼炎、結膜炎、涙嚢炎など病変が眼球内外の種々の部位で生じます。
八代成子: 梅毒と梅毒性眼疾患の動向と発症のダイミング眼科 65:509-13.2023
2023年10月に開催された臨床眼科学会の一般講演[ぶどう膜炎]では梅毒のセッションが設けられ5題の梅毒関連演題が発表されました。

ASPPC:Acute syphilitic posterior placoid chorioretinitis

眼梅毒に特有ではあるものの、比較的稀なASPPCという病態が、学会では盛んに議論されました。
これは黄斑部に黄白色の円形病変を生じる梅毒性網脈絡膜炎の病型で、1990年に有名なGassが命名したものです。
Gass JD, Braunstein RA, Chenoweth RG: Acute syphilitic posterior placoid chorioretinitis. Ophthalmology 97:1288-97.1990
同様症例の報告はそれ以前からも国内外で相次ぎ、筆者らもGassの報告と同じ1990年に中心性漿液性脈絡網膜症CSC https://meisha.info/archives/1931類似の黄斑部病変(図左)を示した56歳女性の梅毒症例を報告しました。
保坂理, 飯島裕幸, 小清水正人: 急性梅毒性黄斑部網脈絡膜炎. 眼科 32:1523-7.1990

OCTがまだ登場していない当時、病態解明の手段はフルオレセイン蛍光眼底造影検査FAですが、CSCでみられるはずの蛍光漏出点ではなく、造影後期の組織染による過蛍光像がみられています(図中央)
治療にて病勢がおさまった後、FAで顆粒状過蛍光像を示すRPEの萎縮が残ると視力回復は制限されます(矯正視力0.4、図右)
最近の報告ではOCTによる詳細な観察にてRPEの変化視細胞を示すEZの障害が明らかになっています。
小宮有子他.: 視細胞外節異常から診断に至ったacute syphilitic posterior placoid chorioretinitisの1例. 臨床眼科 75:105-11.2021
牧野想他: 中心性漿液性脈絡網膜症と鑑別を要した梅毒性ぶどう膜炎の1例. 臨床眼科 73:753-60.2019