網膜裂孔などは散瞳しなくても超広角眼底カメラで確認できます。https://meisha.info/archives/3081
しかし重大な眼底病変が疑われる場合には、散瞳薬を点眼して眼科医の目で直接観察する眼底検査が必要です。
しかし前房が浅く(浅前房眼)隅角が狭い(狭隅角眼)原発閉塞隅角症 PAC: primary angle closure、あるいはその疑いのあるPACSの目では、散瞳により眼圧が急上昇する急性緑内障発作、すなわちacute PAC(APAC)のリスクがあります。https://meisha.info/archives/452
そこで散瞳薬点眼にあたって、多くの眼科医は表の4点を考慮します。
前房深度や狭隅角の程度はvan Herick法や隅角検査でのShaffer分類、前眼部OCT検査などで他覚的に評価できます。https://meisha.info/archives/3254
しかしたとえばvan Herick法で周辺部の前房深度が何分の1 CT以上あれば散瞳してよいという基準は存在せず、判断は眼科医によって異なります。
瞳孔は晴れた昼間は縮瞳しますが、夕方薄暗くなると5-6mm程度の中等度に散瞳します。
散瞳によって可逆性に隅角が閉塞する狭隅角の目では、一時的な眼圧上昇で角膜実質に浮腫を生じます。
その状態で電灯の灯りなどを見ると、雨上がりの空に虹が見えるのと同じ機序で、図のような灯りの周りに虹が見える虹視(症)(iridopsia, 光輪視とも呼ばれる)を自覚します。
このような虹視症を何回か繰り返した後に、不可逆性の急性緑内障発作を発症するので、最近、虹視症を経験した目の散瞳は高リスクです。
狭隅角であっても、眼圧上昇もなく、器質的隅角閉塞の所見である周辺虹彩前癒着PAS: peripheral anterior synechia)もない目はPACS(PAC suspect)と呼ばれます。
PACSの目に対する一律の治療介入は推奨されていませんが、他眼がすでにAPAC発作を起こしているPACSではAPACのリスクが高く予防治療が推奨されています。
緑内障診療ガイドライン(第 5 版). 日眼会誌 126:85-177.2022 の CQ9
散瞳によるAPACのリスクが高いと判断されても、例えば脈絡膜悪性黒色腫が疑われるなど、眼底の検査の必要性が高い場合には、以下のいずれかの対応をとって散瞳検査を行います。
APACのリスクのある目で散瞳眼底検査を行う際の対応は表のごとくです。
散瞳薬として通常使用するミドリンPの主成分(トロピカミド)は瞳孔括約筋を麻痺させます。
これに対してネオシネジン(一般名:フェニレフリン)は瞳孔散大筋を収縮させて散瞳させます。
ネオシネジンによる散瞳で眼底検査した後、瞳孔括約筋を収縮させるピロカルピンを点眼して縮瞳させることでAPACのリスクを下げる考え方です。
私自身は、APACを生じる危険性はあるが適切に対応すれば大丈夫であることをよく説明して、通常の散瞳検査を行うことが多いです。
具体的には患者さんに以下のように説明します。
[眼科の診療が終わって家に帰ってから、眼圧上昇のために眼痛や頭痛、場合によっては嘔吐を生じることがあります。その際、片目を隠してどちらかの目がよく見えないようなら、原因は眼圧上昇の可能性が高いので、病院に連絡して夜中でもよいので救急外来を受診してください]
散瞳検査でAPACを起こす患者さんは散瞳検査を行わなくても、いずれそのうちにAPACを起こします。
その際の頭痛や嘔吐がAPACだと気づかずに脳外科や消化器内科を受診して失明することがあります。https://meisha.info/archives/3398
それよりも眼科での散瞳検査でAPACを誘発して適切に対応できるほうが患者さんのためになると考えています。