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ヘルペス性前部ぶどう膜炎(虹彩炎)

感染性ぶどう膜炎を生じるウィルスの多くはヘルペス属ウィルスに含まれるHSV-1/2、VZV、CMVです。https://meisha.info/archives/4725
HSVとVZVは汎ぶどう膜炎に分類される急性網膜壊死ARN: Acute retinal necrosis https://meisha.info/archives/2799を生じ、CMVは後部ぶどう膜炎であるCMV網膜炎の原因ですが、それ以外に3者とも前部ぶどう膜炎を生じます。https://meisha.info/archives/4717
ここでヘルペス性前部ぶどう膜炎anterior uveitis; AUと、ヘルペス性虹彩炎herpetic iritisヘルペス性虹彩毛様体炎はいずれも同義で、原因ウィルスによってHSV-AU, VZV-AU, CMV-AUとされます。

増加しているヘルペス性虹彩炎

ぶどう膜炎の原因を調べた2002、2009、2016年の本邦の疫学研究で、ヘルペス性虹彩炎の割合は3.6%, 4.2%, 6.5%と明らかに増加しています。
大野重昭, 他: ぶどう膜炎診療ガイドライン. 日本眼科学会雑誌 123:635-96.2019
Sonoda KH et al.: Epidemiology of uveitis in Japan: a 2016 retrospective nationwide survey. Jpn J Ophthalmol 65:184-90.2021

これはヘルペス性虹彩炎自体の増加というより、前房水からのウィルス抗原を検出するPCR検査の普及とその簡便化など、診断技術の進歩が主な理由でしょう。

VZV-AU

このうちVZV-AUは、眼周囲から鼻背にかけてhttps://meisha.info/archives/4676帯状疱疹の出現と相前後して、高眼圧や色素沈着を伴う豚脂様の角膜裏面沈着物(KPs)がみられる虹彩炎として、診断は以前から容易でした。
活動がおさまった後にみられる虹彩萎縮やそのための瞳孔変形なども特徴的です。

HSV-AU

一方でHSV-AUの診断は難しく、かつては剖検眼のぶどう膜組織の細胞、すなわち虹彩色素上皮、虹彩実質細胞、瞳孔括約筋細胞などの細胞内にHSVの形態的特徴を示す粒子が電顕像で示されたHSV-AUの診断例の学会報告がありました。
内田幸男. その他の感染症によるぶどう膜炎. 眼科MOOK No12 ぶどう膜炎: 金原出版.175-84. 1980
しかしHSVによる円盤状角膜炎(角膜実質炎)からの進展で、前房内炎症を示す角膜ぶどう膜炎例で、PCR検査で前房水からHSVのDNAを検出できるようになった2000年代初め頃から臨床診断される例は増えてきました。

CMV-AU

CMVについては、免疫不全状態の患者でCMV網膜炎を発症することがあるものの、健常人では病原性がないと思われてきました。
細貝真弓: サイトメガロウイルス感染と眼疾患. 眼科 59:37-46.2017
しかし全身的に健常な虹彩炎患者さんの前房水から定量PCRで有意な量のCMV-DNAが検出されCMV角膜内皮炎小泉範子: サイトメガロウイルス角膜内皮炎の最近の知見. 臨床眼科 70:28-31.2016)とともにCMV-AUの存在が2006年頃以後、知られるようになっています。