落屑症候群 XFS: exfoliation syndromeでは脆弱なチン小帯https://meisha.info/archives/5369と、散瞳点眼薬に反応しにくい小瞳孔のため、白内障手術https://meisha.info/archives/793の難易度が高いとされます。
なおPE、PEX 、PXSなどと略された以前の病名:偽落屑症候群 pseudoexfoliation syndromeは現在では使われません。https://meisha.info/archives/3952
瞳孔径は虹彩内の2つの平滑筋、すなわち瞳孔括約筋と瞳孔散大筋https://meisha.info/archives/4375でコントロールされますが、XFS眼ではどうして散瞳不良になるのでしょうか?
下図の虹彩断面の模式図で示されるように、虹彩の大部分は中胚葉起源の支質 stromaで、血管、神経、メラノサイトを含む疎な結合組織です。
その前面の前境界層 anterior border layer 表面は線維芽細胞の網状構造で覆われていますが、前房水は自由に通過できます。
虹彩の後房側は外胚葉起源の前後2層の上皮細胞層で、メラニン顆粒を豊富に含みます。
このうち前層の前上皮細胞からは筋突起が伸びて放射状に配列する瞳孔散大筋を形成します。
一方瞳孔縁を輪状に取り囲む瞳孔括約筋も発生学的には前上皮細胞由来の筋上皮ですが、支質内に存在します。
田村正. 虹彩. 小川和朗他編集:人体組織学、感覚器: 朝倉書店.137-48. 1984
XFS眼の虹彩を構成するほぼすべての細胞、すなわち虹彩裏面の色素上皮細胞、支質内の線維芽細胞、メラノサイト、血管内皮細胞、血管周皮細胞、平滑筋細胞が落屑物質 XFM: exfoliation materialを産生します。
その結果観察される多彩な臨床症状はXFS 虹彩症と呼ばれます。
(1998年の下記綜説ではpseudoexfoliation (PEX)-iridopathyと記載されていますが、近年PEXではなく偽(pseudo)を付けないXFSを採用するようになったので、本編ではXFS 虹彩症と呼称します。)
Naumann GO et al: Pseudoexfoliation syndrome for the comprehensive ophthalmologist. Intraocular and systemic manifestations. Ophthalmology 105:951-68.1998
XFS 虹彩症ではXFMの沈着以外に、瞳孔散大筋と瞳孔括約筋がともに変性、萎縮像を示します。
特に瞳孔散大筋では菲薄化や断絶する部分がみられ、散瞳不良の主因と考えられます。
一方、虹彩内の血管壁には大量のXFMが沈着して血管の内皮細胞や周皮細胞、平滑筋細胞が変性し、血管腔の閉塞も目立ちます。
このような血管密度の減少で生じる低酸素が瞳孔散大筋など平滑筋の委縮の原因と考えられます。
さらにXFM沈着による虹彩の弾性低下も散瞳不良に関与します。
Asano N, Schlotzer-Schrehardt U, Naumann GO: A histopathologic study of iris changes in pseudoexfoliation syndrome. Ophthalmology 102:1279-90.1995