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近視性脈絡膜新生血管と黄斑部委縮

近視性脈絡膜新生血管(近視性CNV:myopic choroidal neovascularization)は強度近視眼に発生する黄斑部新生血管(MNV:macular neovascularization)で、黄斑下血腫https://meisha.info/archives/1851黄斑浮腫によって視力低下や変視症を生じます。
無治療でみた場合、その後に生じる黄斑部委縮が進行拡大して10年後にはほとんどの目で0.1以下の視力になったとされます。
Yoshida T et al.: Myopic choroidal neovascularization: a 10-year follow-up. Ophthalmology 110:1297-305.2003
近視性CNVに対する第一選択の治療は現在では抗VEGF薬硝子体注射https://meisha.info/archives/3153ですが、この治療が黄斑部委縮を抑制するかどうかは不明です。
佐柳香織: 近視性脈絡膜新生血管とその後の黄斑部萎縮、臨床眼科 76:75-80.2022
本邦で抗VEGF薬、ラニビズマブ(ルセンティス)が最初に承認されたのは2009年です。
その当時、抗VEGF薬治療を両眼に受けた近視性CNV患者さんが15年を経て受診されたので、経過を振り返ってみました。

症例:59歳女性

初診は2007年で、両眼とも-12Dの近視、矯正視力は0.3/1.2で、右眼の中心窩にCNVがみられました。
抗VEGF薬以前の治療法であるトリアムシノロンのテノン嚢下注射(STTA)を行い、その1か月後に光線力学的療法(PDT)https://meisha.info/archives/1966を施行し、視力は0.7に改善しました。
しかし2年後の2009年に、図に示す如くCNVの再発がみられたので、今度は未承認治験薬の抗VEGF薬であるベバシズマブ(アバスチン)硝子体注射を行い、矯正視力は0.6から0.7に改善しました。
(2000年以後の10年間、CNVに対する治療はSTTA→PDT→ベバシズマブ硝子体注射→ラニビズマブス硝子体注射とめまぐるしく変遷しました。)

2011年に今度は左眼にCNVを生じてラニビズマブ(ルセンティス)の硝子体注射を行い、0.2が0.7に改善しました。
さらに2016年の左眼再発に対して2回目の注射を行いました。
その後両眼にCNVの再発はみられていませんが、2024年に白内障手術目的で紹介されました(矯正視力は0.7/0.7、白内障は軽度で手術は主に強度近視の屈折矯正目的です)。

2009年とその15年後の2024年の両眼の眼底写真および眼底自発蛍光写真は図のごとくです。
右眼の黄斑部委縮はわずかで、左眼では自発蛍光で軽度の低蛍光を示すのみです。
15年経過しても黄斑部委縮の拡大がみられないのは、抗VEGF薬硝子体注射という新しい治療法を受けることができたためではないかと、患者さんと喜びを共有しました。