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強度近視眼の屈折矯正手術

近視を治す手術のうち、LASIK手術やフェムトセカンドレーザー手術https://meisha.info/archives/494など角膜のカーブを弱める手術は比較的軽度の近視が適応です。
程度のより強い強度近視に対しては水晶体をターゲットにします。

Fukala手術

昭和54年に刊行された石原忍創著、鹿野信一改訂の[小眼科学 改訂第18版]の60頁には[18-20Dの強度の近視水晶体を摘出することによって正視眼に近い屈折状態とすることができる(フカラFukala手術)]と記載されています。
これはVincenz Fukala (1847-1911)による透明な水晶体の除去手術を指します。


具体的には水晶体前嚢を切開し、その結果、膨化する水晶体皮質を種々の方法で吸収させました。
同時代のDondersFuchsvon Graefeらは、若年者を人工的無水晶体眼にすることで調節力が失われるなどと反対しましたが、Fukalaは実際に手術を受けた患者さんが仕事につけるようになったことを示し、手術による現実的な利益は理論的な批判に勝るとしました。
原著は1890年発行ですが、下記の綜説論文に解説されています。

Schmidt, D. and A. Grzybowski (2013). “Vincenz Fukala (1847-1911) and the early history of clear-lens operations in high myopia.” Saudi J Ophthalmol 27(1): 41-46.

強度近視への水晶体嚢内摘出術

現在白内障手術で行われる眼内レンズの移植図左端)は、1970年代にはまだ一般的ではありませんでした。
当時の白内障手術では、チン小帯を切断して嚢に包まれたままの水晶体を丸ごと取り出す水晶体嚢内摘出術(ICCE: Intracapsular lens extraction)が主流で、術後は人工的無水晶体眼になります。
そのため多くの患者さんは強度の遠視となり、分厚い凸レンズのメガネが必要でした(図右端)。
しかし強度近視の患者さんに限ると、無水晶体眼となることで正視に近づくため、裸眼あるいは薄いメガネでよく見えるようになります。
強度近視の患者さんでは白内障がわずかであっても、ICCEはメリットの大きい手術でした。
このことは眼内レンズを移植する現在でも通用します。

現在の屈折矯正目的白内障手術

73歳のA子さんの左目は、黄斑出血後の網膜委縮で数年前からよく見えていません。
屈折は右-17D、左-13Dで白内障は軽度です。
頼りの右目に近視性黄斑症https://meisha.info/archives/300を発症したので、2年前に抗VEGF薬硝子体注射https://meisha.info/archives/119を行い、矯正視力は0.2から0.6に改善しました。
右の眼底は図のように安定しましたが、分厚いメガネでの生活は不便でした。
そこで白内障は軽度でしたがPEA/IOL手術を勧めました。

手術後の視力は以下のごとくで、左が見えないのは近視による網膜委縮のためです。
RV = 0.3 (1.0 X -3.5D)
LV = mm
頼りの右目で遠くは少しぼやけますが、夜間に起きた際にもメガネをさがす必要はなくなりました。
また裸眼で本を読むことができてとても満足しています。

若年者の強度近視に対するフェイキックIOL

なお、若年者の強度近視眼に対しては、現在は水晶体を残して、その前に凹レンズの眼内レンズを挿入するフェイキックIOL(有水晶体眼内レンズ手術)が行われます。
水晶体が残るので調節力を失う心配はありません。