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甲状腺眼症の経過の記録法

中高年でみられる複視の主な原因のひとつは甲状腺眼症https://meisha.info/archives/5400甲状腺自己抗体https://meisha.info/archives/420眼窩3方向MRI画像(脂肪抑制T2強調像での浮腫を伴う外眼筋の腫大)https://meisha.info/archives/27で診断します。
甲状腺眼症の活動期には眼窩炎症の鎮静化を目的として、免疫抑制療法(ステロイドパルス治療)放射線照射、ステロイドテノン嚢下注射などを選択します。https://meisha.info/archives/2540
複視に対する斜視手術は眼窩炎症が沈静化した後に計画しますが、それまでの病勢のモニターと術後の再発チェック目的のための経過観察は重要です。

活動性のモニター

炎症の活動性は通常CAS(Clinical Activity Score)https://meisha.info/archives/2540MRI画像で評価します。
一方、甲状腺自己抗体のうちTSAb:thyroid stimulating antibody(甲状腺刺激性抗体)は甲状腺眼症の重症度や活動性に強い相関がみられます。
Noh JY et al.: Thyroid-stimulating antibody is related to Graves’ ophthalmopathy, but thyrotropin-binding inhibitor immunoglobulin is related to hyperthyroidism in patients with Graves’ disease. Thyroid 10:809-13.2000
そこで筆者は経過中の活動性を評価する数値モニターとしてTSAb値に注目しています。

症例:51/F

3年前に右の甲状腺乳頭癌右葉切除後に甲状腺機能亢進症を生じ、半年前から左の眼瞼腫脹、1か月前から下方視での複視を自覚するようになりました(下図左は初診時の5方向眼位図)

内科でのメルカゾール治療で甲状腺ホルモンは正常化していましたが、TSAbは8000%と超高値を示し、眼窩MRI画像も左外眼筋の炎症を示して甲状腺眼症と診断されました。
ステロイドパルス治療を行いましたが、MRIでの外眼筋炎症は両眼窩で増悪しました(上図中央:冠状断、右:左眼矢状断)
そこで2回目のステロイドパルス治療、さらに放射線照射を行い、3年半後にようやくTSAbが3桁にまで低下しました。
MRIでは両眼の外眼筋炎症は著しいものの比較的対称的であったためかこの間の複視の悪化は軽度で、結局斜視手術の必要はありませんでした。
治療に抵抗した初診時からの4年半の経過は、高値を持続したTSAb値の下図グラフでよくわかります。