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ERMに対するILM剥離術後の緑内障視野障害

変視症を訴える網膜上膜(Epiretinal membrane: ERM、網膜前膜、黄斑上(前)膜とも呼ばれる)https://meisha.info/archives/1863の治療では、その足場となる内境界膜(ILM: Inner limiting membrane)も一緒に剥がすILM剥離手術が標準的です。
しかしすぐ下層の網膜神経線維層(retinal nerve fiber layer: RNFL)がILM剥離によって機械的に損傷されるリスクが危惧されます。

緑内障眼でのILM剥離術後の視野悪化

実際すでにRNFLが菲薄化している緑内障眼では、合併するERMのILM剥離手術によって視野が悪化することが近年報告されてきています。
Kaneko H et al.: Effect of internal limiting membrane peeling on visual field sensitivity in eyes with epiretinal membrane accompanied by glaucoma with hemifield defect and myopia. Jpn J Ophthalmol 65:380-7.2021
Tsuchiya S et al: Visual field changes after vitrectomy with internal limiting membrane peeling for epiretinal membrane or macular hole in glaucomatous eyes. PLoS One 12:e0177526.2017

以下は緑内障ではない両眼のERM症例に対して10年前にILM剥離術を行ったところ、その後の経過で緑内障を発症し、特に左眼では中心視野の悪化による視力低下まできたしたケースです。

症例:61歳女性

両眼の白内障とERMで10年前にA眼科からY大学病院眼科に紹介されました。
-9.5/-9.0Dの強度近視で矯正視力は0.8/0.9、アムスラーチャートで両眼とも変視症(R>L)が確認されました。
そこでILM剥離を伴う硝子体手術(PEA/IOL併用)を両眼に行いました。
1年後の矯正視力は1.0/1.0で紹介元のA眼科に逆紹介しました。

10年後

矯正視力が左眼で低下(1.0/0.5)したため、後発白内障(posterior capsular opacification: PCO)https://meisha.info/archives/861が原因ではないかとしてA眼科から再度紹介されました(眼圧は両眼17mmHg)。
しかし左眼のPCOは視軸にはかかっておらず、10-2視野検査では耳側に偏心して傍中心暗点がみられました(図下段左)
左眼の視神経乳頭のリムhttps://meisha.info/archives/800は上下の耳側縁で菲薄化し(図下段中央)、垂直方向のOCT(図下段右)でも両矢印の間でRNFLの菲薄化、消失が確認されたhttps://meisha.info/archives/523ことから、緑内障の進行による中心視野障害が左眼視力不良の原因と判断しました(図上段の右眼にも緑内障の変化がみられています)

A眼科に問い合わせたところ両眼の24-2視野検査がこれまで3回施行されていました。
そのうちERM手術の4年後(再紹介の6年前)の24-2視野では両眼とも正常でしたが、その後の視野で緑内障性の変化を生じていました。
つまりILM剥離の術後10年の間に両眼に正常眼圧緑内障を発症して、特に左眼では視野障害の進行によって視力が低下したと考えられました。