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眼内レンズの選択と術後目標屈折値

白内障手術では濁った水晶体を取り除いてプラスチックでできた眼内レンズ(intraocular lens: IOL)を移植します。https://meisha.info/archives/761
その際、移植するIOLの度数によって術後の状態を正視(目標屈折値が0D)軽度近視(目標屈折値が例えば-3.0D)にすることができます。
-10D以上の最強度近視の目では、手術までは縁の分厚いメガネやコンタクトレンズなしでは生活できませんでしたが、目標屈折値が例えば-3.0DになるようなIOL度数を選択すれば、術後には裸眼でスマホを見ることができて、運転もうすい近視メガネの装用のみで可能になります。https://meisha.info/archives/3641
一方、術後にメガネなしの裸眼で運転できるようにするには、目標屈折値が0DになるIOL度数を選択しますが、保険適用の通常の単焦点のIOLだとスマホをみる際に、+3.0D程度の老眼鏡が必要になります。

老視矯正IOL

運転時もスマホもメガネなしで見るためには、多焦点IOLや焦点深度拡張型と呼ばれるEDOFレンズなどの老視矯正IOLを選択しますが、通常、数十万円のIOL費用を別途支払うことになります(選定療養による保険外併用療養費制度)。
佐々木洋: 老視矯正眼内レンズ. 日本の眼科 95:508-16.2024

移植IOLの選択

保険診療の単焦点IOLで目標屈折値をどうするか、あるいは高額の老視矯正IOLを選択するかの判断に関しては、患者さんの術前の生活状況を把握した眼科医の適切なアドバイスが必要です。
その基本は術後のメガネを容認できるかです。
(今回と同様の術後の目標屈折の話題を以前にも提供しましたが、https://meisha.info/archives/5574今回は術前のメガネ使用有無と老視矯正IOLも取り入れてブラッシュアップしました。)

メガネOKのヒト

近視で若い頃からのメガネ常用者であればメガネに抵抗はありませんし、正視や軽度遠視であっても老眼鏡の使用経験があれば、遠見を重視した予想屈折0Dの単焦点IOLで近業時のみの老眼鏡使用は受け入れられます。
一方、宝石職人など近業作業者や本やコンピュータを見ている学者などは-2~-3Dの近視になるようなIOLを移植して、運転時のみ遠用の近視メガネを掛けることをすすめます。

メガネなし希望

一方、近視であってもコンタクトレンズの常用者やメガネ装用の経験のない正視や軽度遠視では、近方であっても術後にメガネを掛けることに抵抗があります。
そのような場合には多焦点眼内レンズやEDOFレンズなどの老視矯正IOLをすすめます。
EDOFレンズの中には保険診療でカバーされるもの(LENTIS Comfort 、参天)もあります。
また不同視や斜視などで両眼視をしていないヒトhttps://meisha.info/archives/545であれば、片眼を0D、他眼を-2~-3Dの近視になるような目標屈折の単焦点IOLで、モノビジョンhttps://meisha.info/archives/5769によって術後のメガネなしを達成することができます。