• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

大人の斜視手術

大学病院の斜視専門外来は子供の患者さんで溢れていて、大人の患者さんはあまりいません。
しかし街中で斜視の大人を見かけることはときどきあります。
結膜炎でたまたま眼科を受診した外斜視の患者さんに、斜視は手術で治せることを説明しました。
手術後の改善を鏡で確認してもらったところ、もっと早くに手術を受ければよかったと後悔されました。
患者さんは大人になってからでは、斜視は治療できないと諦めていたのです。
これは見た目を治すだけの斜視手術を、昔の眼科医が勧めなかったことが原因のようです。

斜視治療の目的

多くの斜視は手術で治療します(調節性内斜視は例外)。
その目的は大きく3つに分類されます。

1. 両眼視機能の発達維持

対象を見る際に両目を使う両眼視機能の最大のメリットは距離感がわかること(立体視)です。
ライオンやふくろうでは両目が顔の前面についていて、立体視によって獲物との距離を判断しています。
人間でも外野フライの捕球や、顕微鏡を使って後嚢の前で水晶体核を削る白内障手術では、両目を使用しての距離感が重要です。
しかし斜視で幼小児期から視線がずれているとこの両眼視機能が失われます。
斜視手術を子供のうち行う最大の理由は両眼視機能の維持発達です。

2. 眼精疲労や複視の改善

間欠性外斜視や大角度の外斜位では、両眼視のため寄り目(輻湊)を持続することで眼精疲労になります。
また両眼視機能のある人が眼筋麻痺などで斜視(麻痺性斜視)になると、見るものが左右あるいは上下にずれる複視を生じて両目を開いているのがつらくなります。
眼精疲労や複視の症状を改善する目的で斜視手術を行います。

3. 外見的な改善

両眼視機能がすでに失われた大人の外斜視の患者さんでは、眼精疲労も複視も自覚しません。
そのような患者さんに対して、[斜視の手術をしても両眼視機能はもどらないし、複視で困ることもないので、今のままでよい]という説明で、手術を勧めない風潮は私が眼科医になった40年くらい前にはありました。
しかし傍目にもわかる明らかな外斜視の人は、他人から指さされてひそひそ話をされるなど、不快な思いのため外出を控えるという話をよく聞きます。
そのような患者さんの斜視を手術で治すと、外出して人と接するのが苦にならなくなったと喜ばれます。
また長い間[人がどう思おうが感知しない]と強がっていた外斜視の高齢者が、孫に[おじいちゃんの目が怖い]と言われたのがショックで手術を希望されることもよくあります。
両眼視機能のない大人の斜視では、手術によってQOV(視覚の質)の改善はありませんが、QOL(生活の質)の改善にはつながるので、外見の改善目的だけであっても、斜視手術は積極的に勧められてよいでしょう。